「時代遅れ」の一言が、僕の心に火をつけた
最初の転機は、町内の豆腐店の事業承継話でした。当初の関心は「まちの風景として店を残したい」というもの。しかし、先代から投げかけられた一言が、大東さんの気持ちを決定づけます。
「手づくりの豆腐は時代遅れ。工場でスイッチひとつでできる時代だから、店は別のことに使った方がいい」
多くの人が諦めるであろうこの言葉に、大東さんは逆に「スイッチが入った」と言います。
「誰にでもできる効率の良いことには興味がない。みんながやらない、手間をかけてでも挑戦することにこそ価値があると思ったんです」
ほぼ同時期に、町内の精肉店も後継者を探していると知ります。資金調達、IT活用、情報発信。異なる分野のスキルを組み合わせ、事業として再構築できるのは自分しかいない。その使命感から、2店舗同時承継という前代未聞の挑戦に踏み出すことを決意しました。もちろん、地域おこし協力隊だった澁谷さんという頼れるパートナーの存在も、その決断を後押ししてくれました。

ITも豆腐屋も同じ。お客さんの顔が見える喜び
事業承継は、技術を学び、設備を更新し、オペレーションを組む、地道な作業の連続でした。しかし、IT業界の最前線で培ってきた「顧客の課題を解決し、価値を届ける」という本質的な考え方は、豆腐屋でも肉屋でもまったく同じように通用したのです。
そして、都市部のビジネスにはない魅力にも気づきました。
「『このお豆腐じゃないとダメなの』と言ってくれるお客さんがいる。ITの世界では数字やデータで見ていたものが、ここでは生身の反応として返ってくる。その手触り感が、何よりのやりがいになっています」
今、大東さんは豆腐づくりで出るおからを使った商品開発や、地域の資源である鹿肉の活用、さらには子どもたちの居場所にもなるような新しい「場」づくりも構想しています。事業承継は、単に店を引き継ぐだけでなく、地域の未来を編集していく創造的な仕事だと、その背中は語ります。


