◆認知症予防の鍵は「血管を丈夫に保ち、血流を良くすること」

脳細胞が十分に元気であれば、アミロイドβやリン酸化タウ、α‐シヌクレインなどは分解されて「老廃物」として排出され、それらの凝集も阻止できます。
そうすれば、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の予防にもつなげられるというわけです。
じゃあ、脳細胞を元気にするのに何が必要なのかと言えば、それは「脳の血流を良くして、十分な栄養と酸素を送り込むこと」、これに尽きます。
重さからすると、全体重の2%程度を占めるにすぎない脳に全血液量の15%が運ばれ、全身の酸素量の約20%がそこで消費されているわけですから、血流が良いかどうかは脳にとって死活問題なのです。
認知症とも関連があるのは当然の話で、アルツハイマー型認知症患者や高齢者は、大脳皮質や記憶にかかわる海馬の脳血流が低下していることもわかっています。
つまり、「血管を丈夫に保ち、血流を良くする」という血管性認知症の予防のポイントは、脳を元気にするという意味でアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の予防のポイントにもなり、認知症の9割を予防する最大の秘訣になると言っても決して過言ではありません。
◆「血管ボロボロ、血液ドロドロ、血流が悪い」=生活習慣病

「血管が丈夫で、血流が良い」の逆を言葉にすると、「血管がボロボロで、血流が悪い」ということになりますよね。
また、流れの良い血液の状態は「サラサラ」と言われたりしますが、流れが悪い血液は「ドロドロ」という表現が使われます。
「血管がボロボロで、血液がドロドロで、血流が悪い」
この表現、どこかで聞いたことがありませんか?
そう! これは、食習慣や運動習慣などがその発症に関与する「生活習慣病」の病態を端的に表すフレーズと同じです。
「認知症は生活習慣病の一つである」と私が強調する理由はまさにここにあります。
もちろん生活習慣だけが認知症の原因であるとまでは言いませんが、「血管がボロボロで、血液がドロドロで、血流が悪い」のが常態化しないように生活習慣を整えることが、認知症予防の重要な第一歩であるのは間違いないのです。
<文/杉本八郎>
【杉本八郎】
すぎもと・はちろう 1942年、東京都生まれ。薬学者、脳科学者。エーザイ入社後、新薬開発の研究室で高血圧治療薬「デタントール」、そして世界初のアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の創薬に成功。アリセプトは97年に米国で、99年に日本で承認・発売。98年、薬のノーベル賞といわれる英国ガリアン賞特別賞を受賞。同年、日本薬学会技術賞と化学・バイオつくば賞、2002年に恩賜発明賞を受賞。京都大学薬学研究科創薬神経科学講座教授、京都大学大学院薬学研究科最先端創薬研究センター教授、同志社大学脳科学研究科教授を経て同大学生命医科学研究科客員教授。日本薬学会理事、有機合成化学協会理事などを歴任。14年、グリーン・テック代表取締役に就任。25年4月、名古屋葵大学学長に就任。趣味は俳句、剣道。主な著書に『世界初・認知症薬開発博士が教える 認知症予防 最高の教科書』(講談社)、『認知症研究の第一人者がおしえる 脳がよろこぶスープ』(アチーブメント出版)

