
結婚をしても夫婦の間には色々と起きるもの。世代を問わず、なかには70~80代で離婚を考える夫婦もいます。しかし、高齢での離婚は決して簡単ではありません。住まいの確保、年金収入、介護、そして子どもたちの反対.……。若い頃とは違う、生活そのものが大きく変わる問題が山積しています。 今回ご紹介するのは、地方都市で暮らす80代夫婦の事例。「このまま夫婦で最期まで一緒に」のはずが、ある日、妻が放った一言によって家族を巻き込む大騒動へと発展することに――。FPの小川洋平氏が“老年離婚”の現実を詳しく解説します。
「私の人生、このままで終わるの?」妻が抱え続けた50年の不満
田中和子さん(82歳・仮名)は、地方都市で夫の耕三さん(84歳・仮名)と二人暮らしをしています。夫婦の年金収入は合計で月24万円ほど。持ち家があり、預貯金も2,500万円ほど保有。金銭的な不安はありません。
耕三さんは元地方公務員。真面目で責任感が強く、職場では周囲から信頼される存在でした。しかし家庭では、いわゆる昭和の亭主関白そのもの。家事はすべて妻任せ、食事の味付けが気に入らなければ文句を言う。 退職後も命令口調は変わらず、妻の趣味や友人付き合いにも理解を示しません。
和子さんは、そんな夫に50年以上寄り添ってきました。しかし80代に入り、気持ちに変化が生まれます。仲の良かった友人たちが、相次いで亡くなり始めたことがきっかけでした。
ある日、友人の葬儀から帰る車中で、和子さんは思いました。
「私の人生、このままで終わるの?」
これまで家族のため、夫のために生きてきました。自分の気持ちを押し殺しながら耐えてきた年月が頭をよぎります。もう80代、そう遠くないうちに夫婦で同じお墓に入ることになるでしょう。“死んでからも、この人と一緒”……考えるほどに、和子さんは耐えられなくなりました。
そして、その日の夕食後。 静かに耕三さんへ向かって言いました。
「あなたと一緒の墓には入りたくない。妻として死にたくない」
耕三さんは耳を疑いました。 まさか80代になって離婚の話を切り出されるとは、思ってもいなかったのです。
離婚したい妻、反対する子どもたち、己を振り返る夫
和子さんの決意は本気で、既に弁護士にも相談していました。しかし現実はそう簡単ではありません。
まず問題になったのが収入です。現在は夫婦で月24万円ありますが、離婚すれば和子さんが受け取る年金は月8万円程度に留まる見込みです。また、離婚が成立すれば年金分割により、正一さんが受け取る厚生年金(共済年金を含む)の報酬比例部分の一部を受け取れる可能性があります。金額は最大で月5~6万円程度と見込まれますが、実際に受け取れる額は状況によって異なります。さらに、手続きが完了するまでには時間を要し、当面の生活費として考えても十分とは言えない金額でした。
80代女性が単独で賃貸住宅を借りることも、容易ではありません。夫婦とも要支援認定を受けており、今後介護サービスが必要になる可能性も高い状況でした。
そんな事情もあり、長男と長女は猛反対しました。
「先も長くないのに、今さら離婚してどうするの?」
「ひとりで歩くのも心配なぐらいなのに、どうやって暮らすの」
子どもたちの言葉に和子さんは余計に腹を立て、意固地になるばかり。家族会議は何度開いても平行線のままでした。
耕三さんも最初は怒りを見せましたが、妻がここまで真剣に離婚を考えていたことに衝撃を受けます。これまでの言動を思い返しながら、少しずつ自分自身と向き合わざるを得なくなっていったのでした。
