
「家族だから、いざというときは助け合えるもの」。そう考えている人は少なくありません。特に独身で暮らしている人にとって、きょうだいや甥・姪の存在は大きな心の支えになるものです。しかし、その思いは相手も同じとは限りません。57歳の独身女性が、弟から告げられた思いがけない一言。その言葉は、家族との関係だけでなく、自分自身の老後について考えるきっかけになりました。FPの三原由紀氏が詳しく解説します。
独身だけど、私には姪っ子・甥っ子がいる…57歳女性の“無意識の安心感”
「うちの子を頼りにされても...」
弟の口から出た言葉に、由美さん(仮名・57歳)は思わず言葉を失いました。
由美さんは地方都市で一人暮らしをしています。地元企業の総務部に勤め、年収は約430万円。結婚歴はなく、賃貸マンションで暮らしています。預貯金は約1,200万円ありますが、ねんきん定期便で確認した65歳時点の年金見込額は月13万円弱。賃貸暮らしを続けながら生活していけるのかという不安を以前から抱えていました。
3歳下の弟は結婚し、3人の子どもに恵まれました。長女は28歳、長男は25歳、次女は22歳。由美さんにとって、甥や姪は特別な存在でした。お正月やお盆には必ず顔を合わせ、誕生日や進学の節目にはお祝いを渡してきました。小さい頃には動物園や遊園地へ連れて行ったこともあります。
もちろん、親代わりだったわけではありません。それでも、子どもたちの成長を見守ることが楽しみでした。両親が亡くなってからは、なおさらです。
「この子たちがいる限り、なんとなくだけれど、自分は完全にひとりではない」――そんな思いがどこかにありました。しかし、その“安心”が揺らぐ出来事が起きます。
「将来は優花ちゃんたちに面倒を見てもらおうかな」冗談のつもりだったが…
ある日、母親の三回忌のあと、親族で食事をしていたときのことです。話題は長女・優花さん(仮名)の結婚へと移りました。由美さんは笑いながら言いました。
「みんな家庭を持っていくのね。私はますます一人になっちゃうわ」
そして場を和ませるつもりで続けました。
「将来、何かあったら優花ちゃんたちに面倒見てもらおうかな」
冗談のつもりでした。ところが弟の表情が変わりました。
「姉ちゃん、それは勘弁してくれよ」
一瞬、場の空気が止まりました。
「俺は何かあったら助けるよ。でも、うちの子たちにはうちの子たちの人生があるからさ」
さらに弟は言いました。
「あの子たちを頼りにするのは違うだろ」
由美さんは返す言葉が見つかりませんでした。弟は冷たく突き放したわけではありません。実は両親の晩年、弟は父親からこう言われていたのです。
「由美はひとりだからな。何かあったら気にかけてやってくれ」
弟自身も、そのつもりでいました。ただ、自分の子どもたちにまで同じ責任を背負わせたくなかった。それだけのことでした。しかし由美さんの胸には、ぽっかりと穴が開いたような感覚が残りました。
「頼るつもりなんてなかった」
そう思いながらも、心のどこかでは、何かあったときには家族だから助け合えるものだと思っていたのかもしれません。その夜ふと考えたのです。
「でも、本当に何かあったら、私は誰に頼ればいいのだろう」
老後への不安が、これまでの何倍も重くなった瞬間でした。
