◆■「邪魔だから押したのよ」が通用しない理由

ちなみに日本民営鉄道協会の2025年度アンケートでは、「荷物の持ち方・置き方(鞄・傘等)」が迷惑行為の7位にランクイン。挙げた人の割合は20.1%で、前年の14.9%から大きく増えています。濡れた傘や大きなバッグへの“もやっ”は、自分が思っている以上に、周りの人の記憶に残るものなのです。
満員電車は、たしかにイライラしやすい場所です。でも、その空間にいる全員が同じように疲れていて、同じように譲り合いながら立っている。「自分だけが我慢している」と感じた瞬間に、人はつい強い言葉を選んでしまう――けれど周りも、たぶん同じことを思いながら黙っているだけなのかもしれません。
◆■それでも、毎朝の電車に乗る人へ
今回の女性が終着駅で転んだとき、周囲の乗客から手を差し伸べる人はいませんでした。それは決して、誰かが彼女を罰したわけではなく、「この人には自分が動く理由がない」と全員が静かに判断した結果なのだと思います。電車という閉じた空間では、ふるまいの記憶は思っているよりもずっと長く、周りに残ります。雨の日の朝、満員電車に押し込まれる瞬間。濡れた傘をきちんと畳む、ぶつかったら「すみません」と短く言う、舌打ちをぐっと飲み込む。たぶん、それだけで、見知らぬ誰かの一日が少しだけマシになる。ふぅとひと息ついてから、ドアをくぐる――そんな朝でありたいなと、自分への戒めも込めて思います。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【十六夜瑠奈】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。グルメ、音楽、エンタメ、サブカルチャー全般に興味がある。文化を分析、執筆することへ情熱を注ぐ。好きな食べ物はお茶漬け。

