◆「日本のサポーターが世界中にいる」W杯でも起きる日本ブーム

「日本の強さは本物だ。オランダが勝てなくて残念だが、日本チームを誇りに思う」
空手が好きでアムステルダムの道場に通っていた彼は、15年前、アポなしで日本の空手道場の門をたたいた。稽古に打ち込む一方でアニメやゲームなど日本の若者文化にもはまった。アムステルダムに戻りIT企業で働いているが、本人の自慢は「日本ブームが来るはるか前からの日本通」であることだ。
その彼は「今回ほどW杯で日本が優勝するチャンスはない」と力説する。「日本通」だけあって日本チームの戦力を詳しく分析し、日本サッカーのレベルの高さを熟知しているが、力説する理由はそれだけではなかった。
「今はヨーロッパもアメリカも日本ブームだ。日本という国の素晴らしさを体験するために、みんな日本を訪れる。だからW杯でも日本が気になっている。簡単に言えば日本のサポーターが世界中にいるということだ。こんなことはめったにない」
日本のインバウンドブームが、W杯でも起きているというわけだ。
欧米のメディアは、前回大会(’22年)で強豪のドイツ、スペインを破ったことや、今回のアジア予選での圧倒的な強さを引き合いにして、日本を今大会の「ダークホース」の筆頭格にあげている。世界のサッカーファンが日本チームに関心を寄せるのは、なんといってもチームの実力が一番の理由だが、インバウンドで日本への理解が進んだ分、日本への評価に厚みが生まれているようだ。
◆メキシコ系商店主「日本はいいチームと評判」
前回のコラムで紹介したニューヨーク・クイーンズ地区のジャクソンハイツに、別の取材で訪れた。ラテン系移民の多い街で、見知らぬメキシコ系の商店主が話しかけてきた。「お前は韓国人か?そうやすやすとメキシコには勝てないのさ」
その前日の6月19日、メキシコは韓国に1対0で辛勝し、ひやひやしながら観戦していたようだ。韓国人でなく日本人だと告げると目の色が少し変わった。
「そうか日本か。同じグループにならなくて神様に感謝していたんだ」
この商店主は日本のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングがメキシコの4つ下の18位であることを知っていた。
「今回、日本はいいチームだってもっぱらの評判だぜ。仲間の中にはファンデュエルで日本の優勝に賭けている奴もいる」
ファンデュエルとはアメリカの大手スポーツ賭博会社のことで、今回のW杯のテレビ中継を見ていると、試合の合間に賭博会社のコマーシャルが度々、流れる。ニューヨークではスポーツ賭博は合法化されており、賭けでも日本の評価は高いようだ。
「秋に甥っ子たちが日本に旅行に行くんだ。あいつら日本のアニメや飯に首ったけでね。よろしく頼むよ。W杯で対戦することになったらお手柔らかに」
陽気な商店主は笑いながら適当なことばかり話していたが、オランダ人の知人が言うように、サッカーファンの日本に対する見方は、以前とは違っていることを実感させられた。W杯でのインバウンド効果を補強するように、日本の評判を上げているのが、スタジアムでの日本人サポーターのごみ収集である。

