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東京育ちの夫婦の夢が叶いました…“退職金1,700万円・年金月21万円”の65歳仲良し夫婦。87歳母からの誕生日LINEで〈地方移住〉の夢が砕けた日

東京育ちの夫婦の夢が叶いました…“退職金1,700万円・年金月21万円”の65歳仲良し夫婦。87歳母からの誕生日LINEで〈地方移住〉の夢が砕けた日

あなたにとって「家庭」とはどんな場所でしょうか。内閣府の「国民生活に関する世論調査(令和7年)」によれば、家庭の役割として「休息・やすらぎの場(61.3%)」や「家族の団らんの場(60.9%)」を挙げる人が多い一方で、「親の世話をする場」と捉えている人はわずか7.7%にとどまっています。多くの人が家庭に癒やしを求める一方で、親の介護は家庭内の役割として事前に想定されにくい傾向があるようです。※事例の人物名はすべて仮名です。

夫婦はどんなときも、一緒に

サトシさんが中堅企業で定年まで勤め上げたことで手にした退職金は、1,700万円。アスカさんもまた、家計と家庭を支えるために長く働き続けてきましたが、勤めていた会社に退職金はありません。老後の公的年金の受給額は夫婦合わせて月に21万円ほどです。

「学生時代から数えれば、毎朝の息が詰まるような満員電車を40年以上も経験してきました。だからこそ、仕事を完全に引退したあとは、あの混雑とは一切無縁の静かな世界で余生を過ごしたいという強い願いがあって。それは、東京で生まれ育った妻にとっても同じ、二人の長年の憧れでした」

そうサトシさんは語ります。現役時代にはなかなか踏み切れなかった夢の具現化ですが、65歳というタイミングは、二人が第二の人生へと舵を切る絶好の機会となりました。

こうして夫婦は、定年退職を機に中部地方への移住を決断しました。移住セミナーに参加した際、年間を通じて比較的温暖な気候であることや、なにかあったときに東京の実家へアクセスしやすい立地であることが決め手となったそうです。町からは100万円の移住支援金も支給されました。新天地に赴いた二人は、すぐに地域の自治会へ入会し、地元の行事には夫婦揃って欠かさず顔を出すように努めました。

「農業の経験はまったくありませんでしたし、土地勘のない私たちがこの場所で新しく暮らしていくためには、地域住民の皆さんとの密なコミュニケーションが不可欠だと考えていました」

その真摯な姿勢が実を結び、周囲の温かい人々に恵まれた夫婦は、移住から3年が経つころには理想的な自給自足に近い生活を営むようになっていました。

「自分たちの畑で採れた野菜をご近所にお裾分けし、代わりに地元ならではの食材をいただく。そんな温かい交流が日常になり、近ごろはスーパーで食料品を買うことがほとんどなくなっていました」

東京に残した87歳母の異変

地方での穏やかな暮らしがすっかり日常に馴染んでいたころ、妻・アスカさんは87歳の母の誕生日に電話を掛けましたが、出なかったのでLINEを送りました。母は新しい物好きで、87歳ながらスマホを使いこなす人でした。アスカさんが連絡をしたのは朝。LINEの返信が来たのは、夜中の2時でした。返信が遅いことはいつものことなので、あまり気に留めていなかったものの、その内容に異変を感じました。

「いまからそっちに行くね」「アスカ、いまどこにいるの?」夜中の2時です。すぐさま母に電話を掛けてみました。

「あ、アスカ。いまからあなたの家に行こうと思っていたの」と、突拍子もないことを言い出し、そのほかの受け答えがなんだかぼんやりとしており、以前と様子が違うのです。

朝になって、急遽東京の実家へ帰省することにしたアスカさん。出迎えてくれた母は、前に比べて足元がおぼつかなくなっており、家のなかも散らかっています。

その日はいったん自宅に戻ることにし、アスカさんはサトシさんに切り出しました。

「お母さんのことなんだけど……。足腰が随分と弱くなっていて、認知症のような症状が出ているようにみえるの。これ以上のひとり暮らしはもう無理だと思う。私が実家に戻って、そばで身の回りの世話をしてあげたいと考えているんだけど、どうかしら?」

実はアスカさん、学生時代という早い段階で父親を亡くしていました。それ以来、母親が父親の分まで身を粉にして働き、彼女を大学まで卒業させてくれたという深い恩義があります。「どんなに感謝してもしきれない大切な母親が困っているときだからこそ、今度は自分がそばにいて支えたい」と願うのは、娘として気持ちでしょう。

しかし、この相談はサトシさんにとってまったくの想定外であり、受け入れ難いものでした。せっかく二人で長年の夢だった地方移住を叶えたのに、なぜいまになって水を差すようなことをいうのか――そんな不満が先立ったのでしょう。

「二人で何度も話し合って、納得してここに越してきたはずだろう。なぜいまになって、そんな急な話を言い出すんだ」

サトシさんの拒絶するような冷淡な態度に、アスカさんの心には強い憤りと失望が湧き上がりました。

「夫とのこれからの生活が大切なのはいうまでもありません。でも、私を育ててくれた母も同じくらいかけがえのない存在です。その気持ちに、夫は少しも寄り添おうとしてくれませんでした」

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