◆90点以上の内容にすれば良いのに、なぜ60点のままなのか
さて、政府が法案骨子と要綱を取りまとめ、衆参両院正副議長に提出した。その採点は?第一案は及第点。女性皇族が皇室に残っても、配偶者と子供を皇族にしない設計になっている。皇女様と結婚したくらいで皇族になれるなどと知ったら、弓削道鏡や足利義満は失神するだろう。「皇族って、そんなに簡単になれるのか?」と。
衆議院で野党第一党の中道の取りまとめが60点の内容だったが、「政府自民党の邪魔をしない」の含意である。つまり90点以上の内容にすれば良いのに、なぜ60点のままなのか? 自民党でも「単なる一般人の男を皇族にしないと明記せよ」との声が上がっている。何をためらうことがある? 今からでも追加すれば良い。
第二案の設計には、疑問が残る。
まず国会の全体会議で自民党しか主張していない「養子の対象者は15歳以上」の限定を法案化するらしい。何の為に? 根拠が「民法でも15歳が区切りだから」くらいの軽い感覚では困る。連立与党の藤田文武共同代表が指摘していたのに、耳を貸さなかった。すべて自民党の責任である。
対象者には高校生も含まれていると聞く。高校生に「僕は国民としての自由を捨て、皇族となって自分の人生を捧げます!」などと言わせる気か? 実際に、そういう大変な話である。対象者には赤ん坊もいるが、はずすことになる。しかし、政府が親御さんを説得し、「物心ついた時には皇族」の方が良いのでは?
既に政府が裏で話をつけていたとしても、心変わりもあるのだから。いずれにしても、ただでさえ旧皇族の方々にお願いして皇族になってもらわねばならないのに、対象者を法律の段階で絞ってどうする?
◆旧皇族が皇籍取得した時の身位は親王なのか王なのか
等々、色々と言いたいが、何より問題なのは、旧皇族が皇籍取得した時の身位は? 親王なのか王なのか。親王は、原則として天皇の子か孫である。生まれながらに親王となるもの以外が親王になるには、天皇陛下による親王宣下が必要である。その手続きを復活させるのも、面倒である。
そう考えると、旧皇族の方々が身分を剥奪された時、全員が王であった。たとえば元首相の東久邇宮稔彦“王”(ひがしくにのみやなるひこおう)のように。ならば、王の身分を奪われた方が本来の身分を回復されるなら、王がふさわしい。
だが王の皇族費は、親王の七割である。国民としての自由を捨てて皇族になっていただくのに、たかが一千万単位の金も手当てしないで、失礼にも程がある。ところが、政府が改正する法律の対象に、この部分の皇室経済法が入っていない。怠慢と評するほかない。
議論を始めて、5年も経つ。法案を整備する時間など、十二分にあった。一体、政府は何をしていたのか? もはや、日本政府の政権担当能力を疑うしかない。
皇室を守るためには、国民が政府への監視を強めねばならない。
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本近世史』が2月28日より発売

