『正直不動産』の映画化に続き、来年は朝ドラ『虎に翼』の映画化も予定されている。これまでにもNHK作品の映画化はあったが、近年はその動きが目立つ。
なぜ今、NHKは映画ビジネスに力を入れ始めたのか?
テレビ朝日でプロデューサーを務め、ABEMAの立ち上げにも携わったテレビ・映像プロデューサーの鎮目博道氏に話を聞いた。

◆NHKが「映画で稼ぎたい」理由
――今年の5月に劇場版『正直不動産』が公開されました。来年は『虎に翼』の映画化もあります。このNHK作品の映画化の流れをどう見ていますか?鎮目博道さん(以下、鎮目さん):NHKのここ最近の行動は、ほぼ全て「若い人が受信料を払ってくれないんじゃないか」という一点に突き動かされていると思うと、大体納得がいくんですよね。
若い人がテレビを見ないという危機感は民放もNHKも共通ですが、NHKの場合は受信料を払ってもらわないと成り立たないんです。
言ってみればサブスクみたいなものなので、このままだと今後、見たいものがなくても払わなきゃいけないという仕組みに納得いかない人が増えると気づいたのでしょう。単純に人口も減少しています。
そうなると、受信料以外からもお金を集めるしかない。映画で稼ぐというのは、その手っ取り早い手段のひとつですね。
――映画だけでなく、配信にも積極的に動いてますよね。
鎮目さん:NHKの局員の中には、「日本で稼げないなら海外に打って出るしかない」と考えている方も意外と多いんです。
NHKって、公務員でも国営でもないけど、かといって民放とも違う。公共放送って何なのか、実は誰にもわかりにくい存在じゃないですか。
だからこそ、世界で一番うまくいっている公共放送のBBCを真似したくなるのでしょう。BBCで制作した『SHERLOCK』や『ピーキー・ブラインダーズ』がNetflixで世界的にヒットしたことが念頭にあるんだと思います。
――配信への積極投資も同じ流れですか?
鎮目さん:そうだと思います。今後、受信料があまり払われない状況でも生き残るには、配信も映画もやっておかないとまずいんです。今回の映画化は、それを解決するための第一歩なんだと思います。
◆テレビの成功法則は映画では通用しない

鎮目さん:そうなんです。テレビ番組が作れるから配信や映画もうまく作れるかというと、実はそうじゃないんですよね。
つまらなければ、テレビはすぐにザッピングされてしまうから、スタートから面白くする、CMまたぎで離脱させないようにする、といった独特のノウハウの中で何十年も進化してきました。
NHKはCMがありませんが、ザッピングと戦うという点では同じですし、作っているのは民放と同じ制作会社の人間だったりするので、民放と同じ法則で制作していると思います。
でも映画は、途中で切り替えることができません。途中で飽きさせないようなテンポのいいストーリー展開や、結論を引っ張り続ける作り方は、テレビではご法度です。そこに気づかないままテレビと同じように作ってしまうと、途中でだれてしまうんですよね。
これは配信でも同じことです。有料コンテンツと無料コンテンツの違いって、思った以上に大きいんですよ。結果、「映画館で見たけど、結局テレビドラマじゃん」ってなってしまうんです。
――では、何を映画化するかも重要になってきますね。
鎮目さん:テレビの視聴率って、年齢や性別、都市部や地方などに関係なく、広く見てもらえると高くなるじゃないですか。でも映画や配信でヒットするのは、一部の人に深く刺さるものなんですよね。
例えば、子供向けのアニメ作品や近年流行りのオカルト系作品なんかがわかりやすいと思います。でも、テレビマンはずっと老若男女にウケるものを作り続けてきたから、一部の濃いファン層向けの作品を作るのがすごく苦手で、結果、なんとなく浅い映画になってしまうんです。
――それでいうと、『虎に翼』は濃いファン向けの作品に入りますね。
鎮目さん:あの作品は、仕事に打ち込む女性たちに深く刺さりましたよね。そういう人たちが、劇場に観に来てくれる。高視聴率の作品より、熱狂的なファンが付いている作品の方が映画向きだということに、ようやく気づき始めたということでしょうね。

