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医療現場で「コーチング」の技術が役に立つワケ…短時間で有益情報を得る方法とは?【臨床医が解説】

医療現場で「コーチング」の技術が役に立つワケ…短時間で有益情報を得る方法とは?【臨床医が解説】

「目的を明確にする」ことの重要性

私が学んだコーチングのなかでも、とりわけ印象的だったものの一つに、「目的を明確にすること」があります。

コーチングの場では、はじめにコーチが「今日は何について話したいのですか」、「この時間を通じてどうなりたいのですか」などの質問を行い、目的をコーチとクライアントが共有します。

これは一見当たり前のようですが、実際には非常に重要な作業です。

目的が定まらないままコーチングを始めると、話題はあちこちに飛び、まとまりを失います。結局、時間だけが過ぎていき、何も得られないままセッションが終わってしまうこともあります。

診察室でも同じことが起こります。

患者は何らかの悩みを抱えて受診します。しかし、自分がこの診察に何を求めているのかを十分に整理できている人は決して多くありません。

薬が欲しい人もいれば、病名を知りたい人もいます。どのような治療法があるのかを知りたい人もいれば、がんなどの重大な病気ではないか確認したい人もいます。ただ不安な気持ちを聞いてほしいだけの人もいます。

これらはすべて大切な受診理由です。しかし、その目的が共有されないまま話が進むと、診察が迷走してしまうことがあります。

例えば、耳鳴りを訴えて受診した患者がいたとします。

「先生、最近耳鳴りがするんです。そういえば先週、仕事でちょっとトラブルがあって、そのあと夜中に目が覚めて……。あ、そういえば私の母も昔、耳が悪かった気がするんですけれど……」

このように話が始まることがあります。

もちろん、それらはどれも重要な情報です。診断のヒントが隠れていることも少なくありません。医師はそのなかから診断に必要な情報を拾い上げ、整理し、考えられる病気を絞り込んでいきます。

しかし、この作業には思いのほか集中力が必要です。

目的の定まらない会話が長く続くと、医師の思考は分散し、本来集中すべきポイントが見えにくくなってしまうことがあります。

診察室で重要なのは、「何を話すか」だけではありません。「何のために話すのか」も同じくらい重要なのです。

「受診の目的」を明確に伝えることができたなら…

コーチングでは、目的が明確になることで、コーチは必要な質問を的確に行えるようになります。進むべき方向が見えるからです。

診察も同じです。患者が受診の目的を明確にして伝えることで、医師は必要な質問を選びやすくなります。それは医師の思考を助け、より適切な診断や説明につながります。

例えば、

「耳鳴りが続いています。脳の病気ではないか心配で受診しました」

と一言添えるだけで、医師は患者が何を最も心配しているのかを理解できます。

このように伝えてもらえると、医師は耳鳴りの原因を調べるだけでなく、患者が抱えている不安にも目を向けることができます。その結果、診察の質は向上し、患者の満足度も高まります。

患者力とは、医師を操作する技術ではありません。また、医師から特別扱いを受けるための技術でもありません。医師と患者が互いを理解し、共により良い医療をつくるための対話の技術です。

その技術を身につける過程で、私たちは互いを尊重する姿勢や、耳を傾ける態度を育んでいきます。

そして、その積み重ねが信頼という目に見えない財産を育てていくのです。これはコーチングの考え方とも共通しています。

医療の主役は患者です。しかし、患者一人で病気を解決することはできません。また、医師だけでも良い医療を実現することはできません。

診療は共同作業です。患者力とは、医師に任せきりになることでも、患者が医師を評価することでもありません。患者と医師が同じ目標に向かって協力するための力なのです。

そして、その共同作業を円滑に進めるためのヒントが、コーチング技術のなかには数多く含まれています。

次回からは、コーチングの考え方を参考にしながら、医師の力を引き出す具体的な話し方や質問の仕方について説明していきます。

医療機関を受診する際、ほんの少し意識を変えるだけで診察の質は大きく変わります。

そしてその変化は、結果として患者自身が受ける医療の質を高めることにつながるのです。

宮澤 哲夫

みやざわ耳鼻咽喉科 院長

医師・薬剤師

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