銀行員「申し訳ありませんが、ご融資はできかねます」…52歳元会社員、資産1.2億円超なのに住宅ローン審査で“まさかの門前払い”。狭い賃貸で妻と2人「地獄のFIRE生活」のワケ【FPの解説】

銀行員「申し訳ありませんが、ご融資はできかねます」…52歳元会社員、資産1.2億円超なのに住宅ローン審査で“まさかの門前払い”。狭い賃貸で妻と2人「地獄のFIRE生活」のワケ【FPの解説】

住宅ローン審査で銀行が見るポイントは「資産」ではない?

「結論からいえば、収入が0円だと資産がいくらあってもローン審査は厳しくなります。銀行などが住宅ローンで重視するのは、完済時年齢、健康状態、借入時年齢、年収、勤続年数、返済負担率、担保評価などです。9割を超える金融機関がこれらを見ています(注2)。肝心なのは、返済負担率の分母が“保有資産”ではなく“安定継続収入”だということ。退職して無収入になった瞬間、分母がゼロになり、割り算そのものが成立しないんですよ」

フラット35でも、年収400万円以上で返済負担率35%以下が基準とされ、年収に見合った返済額が求められます(注3)。1億2,000万円という「ストック(蓄え)」は、銀行の審査にはほとんど反映されません。銀行が見ているのは「フロー(流れ続ける収入)」なのです。

「では、一部だけローンにするのは? あるいは、妻と二人でペアローンなら?」

そう食い下がる小平さんに、永瀬さんは静かに首を振ります。

「フルローンでも一部ローンでも同じです。ペアローンは夫婦それぞれが個別に審査を通る必要があります。お二人とも無収入では、二人とも通りません。収入合算も、合算する相手にも収入がいるんです」

小平さんは黙り込みました。妻に退職を勧めたあの判断が、自分でその道をふさいでいたのです。

FIRE民が「現金で買う」という選択を避けたい切実な理由

とはいえ資産は1億2,000万円超。「キャッシュで買えばいいではないか」と思うかもしれません。しかしここに、FIRE達成者ならではの“それは絶対に避けたい”というジレンマがありました。

FIRE生活において、運用資産は取り崩すための貯金ではなく、「お金を生み続ける装置」です。たとえば、1億2,000円を年5%で運用できれば、毎年600万円(税引前)を生み出し、生活費やローン返済の原資になります。

もし7,500万円をキャッシュで買ってしまえば、運用資産は4,500万円に激減。これを年5%で運用できたとしても、運用益は年225万円。生活は一気に厳しくなります。そのため、キャッシュで家を買うという選択肢はFIRE生活において、現実的ではないのです。

問題はそれだけではありません。小平さんは52歳。年金が始まる65歳まで13年、その間、公的年金は受け取れません。60歳からの繰上げ受給も選択できますが、生涯減額が続くというデメリットがあります。

無職の高齢夫婦の平均的な支出は月およそ30万円(注4)。小平さん夫婦が希望する生活費は月35万円。それなりに高収入だった小平さんの年金は、夫婦の標準的な年金額(月約24万円・注5)より多い見込みですが、それでも月35万円には到底届きません。

ローンの扉が閉ざされ、現金でも買えない。これが、勢いで退職したFIRE後の住み替えに潜む思わぬ落とし穴だったのです。

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