
キャリアアップを目指す人、水面下で転職活動を進める人、仕事よりプライベートを優先する人……。今の職場には、価値観もキャリア観も大きく異なる社員が集まっています。中間管理職にとって、こうした多様な部下をまとめるのは簡単ではありません。どれだけ指導に熱を入れても、部下の心に届かなければ意味がないからです。本記事では、竹下友浩氏の著書『最大の成果を生み出すチームビルディング メンバー育成に悩む中間管理職のあなたへ』(ごきげんビジネス出版)より2社の事例を通じて、チームの生産性向上と人材定着に結びついた「上司の指導方法」を紹介します。
「個の尊重」が求められる時代の上司の指導
これまでの日本企業では、「新人はみな同じように育てる」「仕事は見て覚える」「上司の背中を見て学べ」という文化が当たり前でした。終身雇用で、組織全体が共通の価値観で動いていた時代は、それでも成果が出ました。しかし、今の職場には性格も価値観もキャリア観も大きく異なる人が集まっています。同じ20代でも、「キャリアアップを目指す人」「プライベート重視で働く人」といったように、多様化しています。
人は「自分を理解してもらえている」と感じると安心するものです。特に若手にその傾向が強く、上司が気持ちに寄り添うことを求めています。つまり、メンバーが上司に求めているのは「個の尊重」なのです。
たとえば、これまでの指導はこうでした。
上司:「こうしなさい」「なぜできないんだ」
部下:「すみません。次は気をつけます」
しかし、「個を尊重する」会話を意識すると、こうです。
上司:「この仕事、どんな進め方がやりやすいと思う?」
部下:「私はB案で進めるのが得意です」
上司:「なるほど、B案のなかで工夫できる点を一緒に考えよう」
この会話例から、上司が部下に対して「一方的に指導する人」から「個を尊重する人」に変わっていることがわかるでしょうか?
「答え」を封印し「対話」を重視することで離職率40%減…中堅メーカーの事例
ここで、個を尊重する育成で成果を上げた企業の事例をご紹介します。
ある中堅メーカー(従業員約300名)では、「ベテランの指導に若手が萎縮する」という問題を抱えていたそうです。その現場では、むしろ上司たちは非常に熱心でした。彼らは、自分たちが受けてきた昭和世代の「背中を見て覚えろ」という昔ながらのやり方を改め、積極的に自分の体験を語り、手厚く指導していたのです。
上司は善意で「自分の経験を伝える」気持ちであった行動ですが、価値観の多様化が進んだ現代の若手にとって、それは「押し付け」に感じられていたというのです。良かれと思ったアドバイスは「指示通りに動くことが正解だ」という誤ったメッセージとなって、彼らを萎縮させていました。
そこで、このメーカーでは、上司全員に「答えを教える一方的な指導」ではなく、質問・共感を中心に「対話を尊重し、個を尊重する」面談を徹底させました。
面談のときには、「俺の時代はこうだった」「この顧客にはこうしなさい」という話を封印し、「この状況を打破するために一緒に考えよう」「何か手助けが必要なことはある?」と、質問と共感を中心にした対話へ、やり方を変更しました。
その結果は、半年後に数字として表れました。若手の従業員満足度は約20ポイント増加し、離職率は対前年比で約40%減少したのです。人事部の分析によると、特に大きな変化は次の2点です。
●上司が「あなたの考えを聞かせて」と言うことで、部下の主体性が上がった。
●部下が上司へミスや課題を話しやすくなった。心理的安全性が高まった。
「個を尊重するコミュニケーション」が単なる人間関係の改善にとどまらず、生産性と定着率の向上に直結した好事例といえるでしょう。
