「ワンメーターだけ乗る客」は迷惑?配車アプリの普及で激変したタクシー運転手の本音

「ワンメーターだけ乗る客」は迷惑?配車アプリの普及で激変したタクシー運転手の本音

◆配車アプリの登場でかつての価値観が一変

ドライバーの本音は今もひとつではない。ただ、取材を続けるなかで確実に変わってきたものもある。以前なら「今日はハズレだった」の一言で片づけられていた1回の乗車を、そう考えないドライバーが増えているのだ。タクシーという仕事そのものが、「運任せ」から「積み重ね」へと変わってきたからである。

かつての営業は「流し」が中心だった。どこへ行くか分からない客を拾い、長距離なら運がよく、近距離なら運が悪い。ある意味、くじ引きのような世界だった。だからこそ「次こそロングが来るかもしれない」という期待が生まれ、ワンメーター客が外れくじのように感じられたのだ。

配車アプリが普及した今は、その前提が崩れ始めている。乗車場所も降車場所も事前に分かることが多く、短距離と承知のうえで迎えに行くケースも珍しくない。ワンメーター客を嫌う最大の要因だった「過度な期待」を、ドライバー自身が抱かなくなったのだ。利用履歴やドライバー評価が積み重なることで、1回1回の営業よりも、高い評価を維持することのほうが重要になってきている。

タクシーは「一発勝負」の仕事から、「積み重ね」の仕事へと少しずつ変わっている。売上額より乗車回数を重視する会社もあり、回数さえこなしていれば売上が多少悪くても咎められない。近距離だからと態度を変えることは、むしろ自分の評価を下げる行為になりかねない。そんな感覚を持つドライバーも増えてきた。

◆乗客が料金を払っているのは…

もちろん、現場では今でも「短距離は勘弁してほしい」という本音は消えない。歩合制という仕組みで働く以上、それを否定することはできない。それでも、タクシーという仕事を長く見ていると、「ワンメーター客」という言葉自体が、少しずつ時代に合わなくなってきているようにも感じる。乗客は距離ではなく、「移動できた」という価値に料金を払っている。ドライバーもまた、距離ではなく「次につながる仕事」を積み重ねる時代になりつつある。駅からマンションまでわずか数百メートルの乗車も、猛暑の午後に病院から自宅まで走る数分間も、終電を逃して数十キロを走る深夜のロングも、本質的には同じサービスなのだ。

タクシーは、人を運ぶ仕事ではない。その人が、その日、その瞬間に抱えている事情を運ぶ仕事でもある。高齢化が進み、猛暑が日常となり、「時間を買う」ことが当たり前になった街で、ワンメーター客が映しているのは、ケチな利用者でも、効率の悪い営業でもないのかもしれない。車窓から見える景色は昔と変わらなくても、後部座席に座る人々の事情は、確実に変わってきた。

<TEXT/二階堂運人>

【二階堂運人】
物流ライター。ライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「二階堂運人ホームページ」
配信元: 日刊SPA!

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