「出ていってくれ」とはいえず…息子の“実家永住宣言”に老後破産の恐怖を覚えた夜
ある日の夕食時、トモキさんが何気なく口にした言葉に、ヒロシさんは凍りつきます。
「俺、このままここに住むよ。別に今の生活で困ってないし、それに父さんを一人にさせたくないしな」
ヒロシさんは、その場では言い返せませんでした。しかし、その夜、老後資金が底をつくかもしれない恐怖を初めて感じたといいます。それまで「いつか自立するだろう」と淡い期待を抱いていました。そんななか告げられた、トモキさんの“実家永住宣言”。
「出ていってくれ」といえば親失格なのではないかと、ヒロシさんは悩み続けましたが、同時に体力的な限界も感じ始めていました。仕事から帰宅しても、食事の支度や掃除の多くはヒロシさんが担っています。
「このまま70代になっても、息子を養い続けるなんて絶対に無理」という危機感が、日に日に強まっていきました。
「これ以上は養いきれない」…親子共倒れを危惧する父が下した決断
数日後、ヒロシさんは意を決してトモキさんに話を切り出します。
「悪いが、もうこれ以上はお前を養いきれない」
「なんだよ急に。たったひとりの息子を見捨てるっていうのかよ?」
トモキさんは、最初は激しく反発しました。しかし、ヒロシさんは初めて本音をぶつけました。
「このままじゃ、いずれ親子共倒れになる。俺の老後資金だって無限じゃないんだ、わかってくれ」
沈黙が続いたあと、トモキさんは不機嫌そうに自室へ戻っていきました。その後もしばらく険悪な空気は続きましたが、ヒロシさんは考えを変えませんでした。家に入れる生活費の金額設定、今後の仕事探し、期限を決めた自立準備。曖昧だった親子関係に、少しずつ線引きを始めたのです。
「お互いのために、しっかり将来のことを考えて動くときが来たのかもしれませんね」
親子で同居すること自体が問題なのではなく、「いつか自立してくれる」という淡い期待を抱いたまま、時間だけが過ぎていくことがリスクなのです。66歳を迎えたヒロシさんにとって、“息子を支え続ける父”でいることと、“自分の老後を守ること”は、両立できない段階に来ていたため、苦渋の決断を下すほかなかったのです。
[参考資料]
・内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」
・内閣府「令和7年版 高齢社会白書」
