「それでも、私は会社を辞めません」…出世欲も存在感もない54歳平社員、密かに達成した〈資産1億円〉。FIREできるはずが、今日も“8時間労働”を続ける「納得の理由」【CFPの助言】

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FIREできるだけの資産を持ちながら、あえて「会社員」として働き続ける理由

亘さんのようにFIREできるだけの資産を持ちながら、あえて会社員として働き続けている人は実際に存在します。このような人々は「FI会社員」(Financial Independence, Remain Employed:経済的に自立した会社員)などと呼ばれており、表面上はごく普通の会社員として組織に紛れているため、周囲からは見分けがつきません。

しかし、世の中のFIRE願望は根強いものがあります。2023年に株式会社AlbaLinkが実施した「FIREに関する意識調査(働いている500人対象)」では、約78%が「FIREしたい」と回答しています。その理由の1位は「仕事・会社から解放されたい」で、5位には「面倒な人間関係から解放されたい」が入りました。多くの人が労働を「生活のため、嫌なことの対価」として捉えている実態が浮かび上がります。

注目すべきは、同調査で4位に挙がった「働き方を選びたい」という回答です。回答者からは「働いてもいいし働かなくてもいいという環境で過ごしたい」というコメントもあり、どうしても退職したいわけではなさそうな心理が推測できます。

厚生労働省「労働安全衛生調査(令和6年)」を見ても、仕事や職業生活で強い不安やストレスを感じている労働者は68.7%と半数以上。その内容は「仕事の量」が43.2%と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等(36.2%)」「仕事の質(26.4%)」と続いています。

しかし、まとまった資産形成に成功して「いつでも会社を辞められる」という選択肢があれば、会社は「耐えるべきストレスの場」ではなくなるのではないでしょうか。

たとえば、亘さんは昇給もボーナスの上積みも期待していませんが、毎月の給与という安定したキャッシュフローが自動的に入ってきます。そのため、1億円の資産には手をつけず、運用を続けられます。しかも、パワハラという試練を乗り越え、定時で帰れる職場環境です。

つまり会社は、亘さんのような人にとって「最強のセーフティネット兼、資産を守り育てるための場」。FIREをできても会社員を辞めない人々には、極めて合理的な理由があったのです。

【FPからのアドバイス】会社員というアドバンテージを手放す前に

亘さんのような「実質FIRE状態の会社員」という生き方は、FP(ファイナンシャル・プランナー)の視点から見ても、理にかなった選択といえます。会社員という立場には、辞めてみて初めて気づくメリットが数多くあるからです。

会社員のメリットとして、まず安定したキャッシュフローが挙げられます。運用資産は暴落すれば大きく目減りしますが、給与は相場と関係なく振り込まれます。資産の取り崩しを始めた直後に大暴落が来れば、回復を待てずに資産寿命が大きく縮むおそれがありますが、給与収入があれば、その局面を「買い増しの好機」に変えることさえ可能です。

また、社会保険があることも見逃せません。会社員の健康保険料・厚生年金保険料は労使折半ですが、退職すれば保険料は全額自己負担になり、厚生年金の上乗せもなくなります。働き続ければ、その分将来の年金額も増えていきます。 そして、意外に大きいのが、社会的信用です。無職の50代と勤続30年の会社員とでは、賃貸契約の審査などでの扱いが大きく異なります。

さらに、所属と役割を失うことによるアイデンティティの喪失は、お金では測れない心理的なダメージになり得ます。 退職したものの会社員に戻りたくなったとしても、50代で前職と同等の条件での再就職は簡単ではありません。

FIREを検討するなら、早期退職という表面的なゴールにとらわれず、経済的自立を「選択の自由」として捉え直すことが大切です。その自由には、会社員を続けるという選択も含まれます。

完全リタイアの前に、以下の4点を確認してみてください。

1)年間生活費を実額で把握しているか
2)収入ゼロでも数年間耐えられる現預金があるか
3)退職後の社会保険料や年金見込み額を試算したか
4)仕事に代わる時間の使い道があるか

今日も亘さんは、定時とともに静かに姿を消します。それは「逃げ」ではなく、長い時間をかけて手に入れた「選べる側」の余裕なのかもしれません。

【出典】
株式会社AlbaLink「FIREに関する意識調査」
 https://wakearipro.com/financial-independence-retire-early/

厚生労働省「労働安全衛生調査(令和6年)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_gaikyo.pdf

松田聡子
CFP®

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