◆ルールは「道路標識のようなもの」




「当初は『食事がお済みになりましたら席をお譲りください』という穏やかな内容しか記載していませんでした。でも、それだけでは伝わらなかったので、スマホや会話についても具体的に記すようになりました」

「(投稿は)イヤホンをつけっぱなしで動画を見て箸が止まる方や、味の濃さなどを聞いても反応がない方が増えたことが気になっていたからです。ただし、注意するのは店の混雑時に、明らかに食事が止まっている場合だけです」
ルール導入によって、「お客さんを注意する回数が減り、従業員のストレスが激減した」とも話す滝坂さん。注意書きを「道路標識のようなもの」と表現する。
「標識があればスピードを落とす人が増えるのと同じで、書いてあれば守る方が増えます。うちはルールを打ち出してよかったと思っています」
◆多すぎる独自ルールの店が生き残る理由
このような「独自ルール」の多い店が、それでも繁盛するのはなぜか。グルメジャーナリストの東龍氏は次のように指摘する。「『ルールが多いから繁盛している』のではなく、『繁盛しているからルールを変えずに済む』んです。ルールのせいで客足が大きく落ちれば、頑固な店主でも軌道修正するはずです」
ルールを嫌う人が離れ、料理や店の個性を好む客が残る効果もあるという。
「長く続く店は『料理がおいしい』ことが大前提です。その上で、客が『我慢』しているというより、店に『合う』客が残っている可能性が高い。濃いリピーターが定着すれば、好き嫌いが分かれる店でも成立します」
ただし、合理的なルールも、ぶっきらぼうな命令として届けば反発を招く。東龍氏は「理由をどう伝えるかも大切」と話す。
注意書きの向こうには、店を回し、料理の質を守る事情がある。「ルールが多い」店は利用する側からすれば面倒にも感じるが、見方を変えれば、ルールがあるからこそ美味しい食事ができているという側面があるのだろう。
東龍(とうりゅう)
1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。
<取材・文・撮影/松嶋三郎>
【松嶋三郎】
浅く広くがモットーのフリーライター。紙・web問わず、ジャンルも問わず、記事のためならインタビュー・潜入・執筆・写真撮影・撮影モデル役など、できることは何でもやるタイプ。X(旧Twitter):@matsushima36

