
「建物の老朽化」と「区分所有者の高齢化」により、役員の“なり手不足”に悩むマンションが急増しています。その解決策として広がっているのが、管理会社が自ら管理者(理事長)を務める「管理業者管理者方式」の導入です。しかし、「役員をやらなくていい」というメリットの裏には、利益相反や規約改悪といった“構造的なリスク”も潜んでいます。国土交通省もガイドライン改定で警鐘を鳴らす新たな方式の光と影について、マンション管理士の松本洋氏が解説します。
管理会社が理事長となる「新たな管理方式」
現在、全国のマンションでは、「建物の老朽化」と「区分所有者の高齢化」という、いわゆる「二つの老い」が深刻な構造的問題となっている。
国土交通省の調査では、区分所有者(世帯主)の25%が70歳以上、築40年を超えるマンションでは、その割合は55%に達する。この高齢化は、理事・監事の「なり手不足」を加速させ、管理組合の運営に大きな支障をきたしている。
一方、管理会社側も人材不足が深刻化しており、管理組合を支援する「フロント担当者」が確保できず、運営の質が低下するケースも増えている。
こうした双方の悩みを背景に、近年急速に導入が広がっているのが、管理会社による「管理業者管理者方式」である。
管理業者管理者方式とは、管理組合の役員ではなく、管理会社が「管理者」としてマンション運営の中心を担う仕組みだ。理事会を設置しないケースも多く、役員の負担は大幅に軽減される。管理会社も社員を理事会に陪席する必要がなく、一人当たりの担当物件を大きく増やせる。
区分所有法には「理事会」という文言がなく、法的にも導入は可能だ。高齢化や多忙な共働き世帯が増えるなかで、「役員をやらなくていい」「プロが全部やってくれる」というメリットは、組合員にとって魅力的に映る。
しかし、この方式には見逃せない“構造的リスク”がある。
国土交通省のガイドラインが明確に指摘する「利益相反の危険性」
管理業者管理者方式が急増するなか、国土交通省は2026年4月に 「外部管理者方式等ガイドライン」を改定し、利益相反の危険性を明確に指摘している。
以下はガイドラインが強調する主要ポイントだ。
1. 管理会社が管理者になる場合は「利益相反が必然的に発生する」
管理会社は、「管理者(マンションの代表)」と「管理業務の受託者(契約相手)」の二つの立場を同時に持つ。ガイドラインでは、これを「利益相反が生じやすい構造」と明記し、特に以下の場面で注意が必要としている。
・大規模修繕工事の発注
・管理委託契約の更新
・専有部分工事の斡旋
・緊急工事の判断
・長期修繕計画の見直し
管理会社が自社に有利な契約を結ぶ可能性が高まるため、管理組合による監視体制が不可欠とされている。
2. 理事会がない場合、監視機能が著しく弱まる
管理業者管理者方式では、理事会を設置しないケースが多い。ガイドラインはこれを問題視し、「管理組合の意思決定が形式化し、チェック機能が低下する」と警告している。特に、修繕工事の相見積もりを取らない、契約内容の説明が不十分、管理費の値上げが突然提案されるなどの事例が全国で増えている。
3. 第三者による監査・修繕委員会の設置を強く推奨
ガイドラインは、利益相反を抑制するために第三者による監査や修繕委員会の設置を強く求めている。具体的には、管理会社以外の専門家による監査、修繕委員会による工事内容・見積もりの確認、管理委託契約の更新時の第三者チェックなどを推奨している。つまり、「管理会社に任せきりにしてはいけない」というのが国の公式見解である。
