
「30年家賃保証」「空室リスクなし」――不動産投資において、こうしたサブリースの謳い文句は、投資初心者にとって魅力的に映る。しかし、契約上の「保証」という言葉を「将来にわたって賃料額が一切下がらない」と解釈してしまうと、思わぬ落とし穴にはまることも。本記事では、陽なた法律事務所代表弁護士の松井竜介氏が、50代会社員の事例とともに、サブリース契約の注意点について解説する。※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更している。
「30年間家賃保証」を信じた50代会社員の一棟アパート投資
「これなら将来の生活も安心できると思いました」
当事務所に相談に訪れたAさん(50代男性)は、会社員として長年勤務してきた。
老後資金への不安から給与以外の収入源を確保したいと考え、不動産投資を検討しはじめたという。当然ながら不動産投資に関してはまったくの素人。そんなAさんが、たまたま不動産会社B社から紹介されたのが、1億2,000万円の一棟アパートである。
B社の営業担当者からは、次のような説明がなされた。
「30年間家賃保証があります」
「空室でも収入は安定します」
「管理も任せられます」
「ローン返済も家賃収入で対応できます」
提示された収支シミュレーションを見ても、毎月確実に一定の利益が出る計算になっていた。
不動産の管理もまったくわからないAさんは、B社に管理を任せれば家賃も保証され、手間もかからず好都合だと判断した。こうしてAさんは「仕事を続けながら資産形成ができる」と購入を決意し、B社の勧めるままサブリース契約を締結したのである。
半年後に届いた「賃料20%減額」の衝撃通知
ところがその半年後、B社から通知が届いた。内容は、「周辺賃料相場の変化等を踏まえ、賃料を20%減額したい」というものだった。
突然の通知にAさんは驚いた。
「30年間保証といわれたのに、なぜ減額されるのか」「20%も減額されたら、利益がなくなり、投資をした意味がない」
疑問と焦りを抱いたAさんは、当弁護士事務所へ相談に訪れることとなったのである。
法律上の「保証」とは、なにを意味するのか
Aさんが最初に問題にしたのは、「30年間家賃保証という説明と違うのではないか」という点だった。
しかしサブリース契約では、「30年間、契約が継続すること」と「30年間、同じ賃料が維持されること」は必ずしも同じ意味ではない。
多くのサブリース契約には、以下のような事情に応じて賃料を見直す条項があらかじめ組み込まれているからだ。
・経済状況の変化
・周辺賃料相場の変動
・物件状況の変化
契約書上、賃料改定の可能性が定められている場合には、「保証」という言葉だけで将来の賃料額が固定されるとは限らない。
最高裁判例が示した考え方「減額の可否は事情を総合判断する」
サブリース契約の賃料減額については、最高裁でも争われた事例がある(最高裁平成15年10月23日判決)。
この事案では、建物所有者とサブリース会社とのあいだで、一定期間の賃料保証を内容とする契約が締結されていた。その後、賃料相場の変化などを理由として、サブリース会社が賃料減額を求めた。
最高裁は、サブリース契約も建物賃貸借契約である以上、借地借家法第32条の適用があり、同条の定める賃料減額請求の対象になると判断した。その一方で、単純に周辺相場だけで判断するのではなく、
・賃料保証特約が存在したこと
・保証賃料額が決定された経緯
なども考慮すべきであると示した。つまり、「サブリース会社だから自由に減額できる」
というものでもなければ、「30年保証だから絶対に減額されない」というものでもない。契約の内容と、その契約が成立した背景を踏まえて判断されることになるのだ。
