「私たち家族は全員バラバラになりました」年金18万円・退職金1,500万円の70代夫婦の不幸…老後資金を食いつぶす53歳無職の引きこもり息子が、2階の四畳半から〈消えた日〉

「私たち家族は全員バラバラになりました」年金18万円・退職金1,500万円の70代夫婦の不幸…老後資金を食いつぶす53歳無職の引きこもり息子が、2階の四畳半から〈消えた日〉

家族離散へ…

「老後資金が足りなくなる」という焦燥は、ついにFさん自身の身体をも破壊していきます。

Fさんは70代という年齢でありながら、「少しでも収入を増やし、資金の減少を止めなければならない」と、働きに出ることにしたのです。採用されたのは、工事現場やイベント会場での交通誘導員の仕事。

夏の酷暑日、寒風が吹き荒ぶ夜間にも駐車場で立ち続けるFさん。体力の衰え的にも本来であれば、家でゆっくり過ごすべき身体に、過度な負担がかかり続けます。そしてある夏の昼間、勤務中に胸の強い痛みを訴え、Fさんは救急搬送されました。診断は急性心筋梗塞。一命は取り留めたものの、後遺症は重く、要介護状態となりました。

在宅介護を担う妻Nさんの心労も限界に達します。夫に無理をさせたという後悔と、息子に声を荒げた罪悪感。介護の疲れ。家庭には重い沈黙と絶望が立ち込めました。そしてある朝、2階の息子の部屋のドアが不自然に開いているのを母親のNさんが見つけました。

部屋の中は綺麗に片付けられ、息子の姿はありませんでした。20年間にわたって積み重なった孤独と劣等感と、両親から日夜浴びせられ続けた「お前が働かないから破綻する」という言葉の重圧に、Yさんはもう耐えられなくなったのでしょう。父親が倒れたことで「自分がこの家にいること自体が、親を追い詰めている」という絶望があったのかもしれません。

警察に相談しましたが、事情を話すと捜索願は受理されたものの、捜査をしてくれるわけではないそうです。無理に連れかえることはなく、発見したとしても捜索願が出されている旨を伝えるだけとか。

「友達もいない、お金もない息子が遠くに行けるわけがない」と夫婦は思っていましたが、それから家に帰ってくることはありませんでした。

夫Fさんの体調はさらに悪化し、妻Nさんも心身のバランスを完全に崩していき、結果として夫婦は住み慣れた自宅を手放し、そのわずかなお金でそれぞれ別の施設や療養先へ身を寄せることになりました。帰ってこない息子の服や本などは、仕方なく捨てることに。

家族のだれもが1人ぼっちになり、家族であることをもう取り戻せません。

「楽しい老後」のイメージが湧かない日本人

長く不景気が続いてきた日本では、老後という言葉は決して楽しいイメージのものではなく、いわば恐怖や不安の代名詞となっています。そして、老後はこのくらい貯めなければならないという情報が溢れ、あらゆる年代の人が、漠然とした老後への不安を感じています。だからこそ、資産運用に多くの人が興味を持っているのかもしれません。

その老後の不安、よく考えてみると、二つの種類があります。

一つは、「気にしているだけ」で大して重要でもない不安です。老後資金はいくら貯めるべきという情報からくる不安がこれでしょう。それは誰が決めたのでしょうか。勝手に自分だけが思い込んでいるだけかもしれません。

人はそれぞれ自分の生き方があります。お金が十分でなくても、毎日ご飯が食べられて、病院にかかることでき、入院費を賄える生命保険があり、住める家がある。お金がなくてもそのくらいの生活ができれば十分のはずです。それを惨めだと決めつけたのは誰なのでしょうか。

人の人生はいろいろです。夫Fさんのように実家に問題を抱えてお金が貯まらない人もいるでしょう。不運と思うかもしれませんが、それも人生なので仕方ないのです。

もう一つは、潜在化して自分では気づいていない不安です。こちらは気づいたときには手遅れとなっているかもしれません。夫Fさんのように、お金の不安に苛まれ、関心を持って接するべき息子Yさんに、むしろ怒鳴り散らしてしまうと、家族をいずれ壊してしまいます。また、不安から無理なお金稼ぎに走り、結局身体を壊し、それが引き金で家族全員が不幸になってしまう。

Fさんも不安に思っていたお金はなんのためのお金だったのでしょうか。家族を維持するためのお金だったのか、SNSやメディアが煽る不安を解消するためのお金だったのか。ひとり息子を食わせるのは別に大きな負担ではないはず。それよりも息子に向き合って、まずはアルバイトで月2万円でも稼げるようになることを、家族として目標にすべきだったでしょう。

立派な仕事も、高額な年収も大切ではありません。家族が壊れるよりなら、家族みんなが食っていければいいやという気楽さを大切にしたほうがいい時代かもしれません。

長岡理知

長岡FP事務所

代表

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