◆膨らんだ疑念が陰謀論へと変わる

日本語を聞いて納得すると、悲壮な覚悟を明かした。「地方で会社を経営していますが、いてもたってもいられず上京しました。ここで死ぬつもりで、遺書はもう書いてきました。セウォル号事故の調査でゴタゴタした時からこの国は怪しいと思い、何も信じなくなった。今では第三の勢力が操っているのだと確信しています」
参加者は大きく三層に分かれた。まずは左派同様、政権運営のずさんさや既得権益に正当に抗議する層。次に、疑念を晴らしたい層だ。
休学して3週間、公園に泊まり込んでいるという釜山の大学生は、SNSの写真を根拠に、中国人によるなりすまし投票を訴えた。記者が「写真自体が偽物である可能性はないか」と聞くと、「そうかもしれない」と認めつつ、「それでも怪しいことが多すぎる」と譲らなかった。

◆「李在明は中国が選んだ大統領だ」
そして、ディープステートを信じる層だ。「李在明は中国が選んだ大統領だ」「中国人が韓国人のふりをして投票した」などが主な主張だ。背景には、地方選挙権を持つ外国人約12万人の8割近くが中国籍で、韓国内の居住義務もないという事実がある。そこに親米、反北朝鮮などの右派思想が混在する。
現場にいたYouTuberは、李在明氏が若い頃に強姦殺人事件に関与し、被害者の遺体を安東地方のダムに捨てたと主張。そして、それを石破茂前首相が日韓会談で暗に告発するために、白米をダムのように高く盛ったカレーを出したのだと語った。
「石破氏は、李在明の犯罪をお見通しだったんですよ」
しかし石破氏が振る舞ったのはらっきょうなどを隠し味にしたオリジナルカレーであり、もちろんダムを模してもいなかった。

いずれにしろ彼らの主張は、国家に対する長年の根深い不信感と不安が表裏一体となっているようにみえた。それが右派的イデオロギーや、あらゆる不満と地続きになっている。それらに寄り添い、解消する責任は韓国政府にあることは間違いないはずである。
どのような政権であれ、国民に信用される政府でいることーーこれは日本にとっても対岸の火事ではなさそうだ。
取材・文・撮影/安宿緑

