
がんや心疾患の治療では、医療費が100万円を超えることも珍しくない。自己負担を一定水準に抑える「高額療養費制度」が、多くの人の家計を支えている。その制度が2026年8月1日から見直された。医療費増加を背景に自己負担限度額が引き上げられる一方、長期治療者への配慮として「年間上限」が新設されるなど、大きな改正となった。家計への影響も気になるところだ。「自分の負担はどう変わるのか」――。制度改正のポイントをわかりやすく解説する。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。
高額療養費制度とは何か――医療費が高額になったときの「セーフティーネット」
日本は国民皆保険制度を採用しており、原則として医療費の自己負担は現役世代で3割、高齢者では所得に応じて1~3割となっている。
もっとも、がんの手術や抗がん剤治療、心臓疾患の治療、人工透析などでは、医療費が数百万円に達することもある。3割負担であっても数十万円から100万円近い自己負担となれば、多くの家庭にとって大きな負担となる。
そこで設けられているのが高額療養費制度だ。
この制度では、1か月間に支払った医療費が所得区分ごとに定められた自己負担限度額を超えた場合、その超えた分が健康保険から払い戻される。
例えば、医療費総額が100万円だった場合でも、自己負担額が必ず30万円になるわけではない。所得区分に応じた限度額まで負担すれば、それを超える部分は高額療養費として支給される仕組みだ。
また、あらかじめ「限度額適用認定証」を利用するほか、マイナ保険証を利用すれば、窓口で最初から自己負担限度額までしか支払わなくて済むケースもあり、多額の立て替えを避けることができる。
この制度は、誰もが安心して必要な医療を受けられるよう支える、日本の医療保険制度の根幹ともいえる仕組みであると言っていいだろう。
制度が見直された背景
では、なぜ今回、高額療養費制度が見直されたのだろうか。
背景にあるのは、急速な高齢化と医療費の増加が挙げられるだろう。75歳以上の後期高齢者は今後も増え続ける見込みで、それに伴って医療保険財政への負担も拡大している。「令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」によると、令和6年度は「1,000万円以上のレセプト数」が過去最多の2,328件に上り、前年度からは172件の増加(+8%)で、10年前と比べるとなんと6倍以上にも増えている。
さらに、医療技術の進歩によって高額な新薬や先進的な治療法が次々と登場している。例えば、がん治療で用いられる免疫チェックポイント阻害薬は薬剤費が数百万円規模に達することがあり、CAR-T細胞療法に至っては、国内で最初に薬価収載された製品で1患者あたり約3,349万円という薬価がついた例もあるなど、数千万円規模に達するケースもある。
こうした高額医療が広がるほど、高額療養費制度から支給される金額も増え、医療保険制度全体を支える財源への負担は重くなる。
厚生労働省は、現役世代の保険料負担を抑えながら制度を将来にわたって維持するためには、高額療養費制度についても一定の見直しが必要と判断したようだ。
一方で、患者団体などからは「自己負担が増えれば、必要な治療を断念する患者が出かねない」「特にがん患者や難病患者への影響が大きい」といった懸念も示され、制度設計を巡って活発な議論が行われた。
こうした議論を踏まえ、今回の改正では自己負担限度額を引き上げる一方で、長期間に高額な治療を受ける患者には負担が過度にならないよう、「年間上限」という新たな仕組みが導入されることになった。
制度の見直しについては、社会保険制度に詳しい社会保険労務士法人WILL代表の山本達矢氏は「制度を持続させるための改革」という側面が大きいと指摘する。
「今回の見直しは、単なる自己負担額の引き上げではありません。高齢化や医療の高度化によって増え続ける医療費を社会全体でどう支えるかという視点で行われた制度改正です。一方で、負担が重くなったことで患者が必要な治療をためらうようなことがあっては本来の制度の目的が損なわれます。制度の持続可能性と、必要な医療を受け続けられる環境とのバランスをどう確保するかが、今回の改正の大きなテーマといえるでしょう」
