◆在宅での新たな挑戦、緻密な「深夜・早朝の寂しい男性の心理マーケティング」
――手術の後、がんの合併症で体が思うように動かせず、家から一歩も出られない過酷な時期を過ごされたわけですが、その在宅期間中に「オトナのチャット」のお仕事を2年ほど経験されたと伺いました。この決断には、どのような背景があったのでしょうか。牧村:当時は本当に家から出られなくて、経済的な面も含めて、生活に対する現実的な焦りがすごくありました。でもそれ以上に、先ほども言ったように私は「常に動いて、頭を使って、何かを生産していないと、自分の存在意味がない」と思い詰めてしまう性質なんです。ただ天井を見つめて療養しているだけの状態に耐えられなくて、今のこの動けない体でも、在宅でゼロから組み立てられる仕事はないか、と探して行き着いたのがそのサービスでした。
最初は、相手に「牧村彩香」であることを一切明かさず、顔も出さずに、ただの匿名の一般女性として会話をしていました。お互いに先入観のない状態で、何気ない日常の会話を交わす。その時間、その瞬間だけが、がんのことや動けない現実を完全に忘れさせてくれる。当時の私の荒んでいた心にとっては、本当に大きな救いになっていた部分もあります。
――そこでも、単に受動的に通話をこなすのではなく、信じられないほど戦略的かつビジネスライクに動かれていたと伺いました。具体的にどのような分析をされていたのですか?
牧村:私はどうしても仕事をするにあたって、やるからには徹底的に仕組み化したかった。ただ待機して電話がかかってくるのを待つのは効率が悪いので、ユーザーの動き、時間帯、年齢層、職業、そして彼らの「寂しさのバイオリズム」を徹底的に分析しました。
例えば、在宅ワークをしているようなユーザー層なら、昼間のちょっとした空き時間に息抜きとしてビデオでお話するとか、あるいは、一番顕著なのが深夜から早朝にかけての男性の動きです。大体、寂しさを抱えている男性って、ネットを見ながら、深夜の3時や4時になってもまだ起きている。朦朧とした頭で、誰かと繋がりたくてネット上を彷徨っているんです。
――深夜3時、4時の時間帯の心理を狙いにいったわけですね。
牧村:普通の女の子はそんな時間には眠くて待機をやめてしまう。でも、そこが一番需要が高まるニッチな時間帯なんです。私は自分の生活リズム(朝起きて夜寝るという健康的なサイクル)は絶対に崩したくなかったので、自分の睡眠をしっかり取った上で、早朝の4時や5時にパッと起きて、その「深夜から夜更かしして、まだネットをうろうろしている、一番心が寂しくて寂しくて堪らなくなっている男性たち」の受け皿になるようにピンポイントで待機を合わせにいきました。
メッセージのやり取りの文体やタイミングだけでも、「この人は今、どういう仕事をしていて、どういう生活スタイルで、女性に何を求めているのか」が手に取るように分かります。「朝起きてすぐに気持ちよくなりたい」という需要なのか、それとも「仕事の愚痴を聞いてほしい」という孤独なのか。それらを瞬時にプロファイリングして、完全に予約制の仕組みに落とし込んで、リピーターを獲得していきました。
――お話を聞いていると、もはやカウンセラーやマーケティングディレクターの視点ですね。
牧村:需要と供給を正確に見極めて、そのバランスを最適に整える。ただお膳立てされた環境をこなすだけじゃなくて、誰もやっていない未開拓の場所から、自分自身の戦略でゼロからイチのビジネスの仕組みを作ること。そこにエネルギーを使うのが、私にとっては一番有意義で、脳が活性化する感覚があるんです。人間、何も頭を使わなくなって、ただ消費されるだけの存在になったら、本当に脳が萎縮してしまいますから(笑)。
――その「生産」という観点で言うと、ネット上で散見される「作品のサンプル映像だけで満足して、本編を買わずに消費した気になるユーザー」に対する違和感を、非常に強い言葉で語られていたのが印象的でした。
牧村:ああ、それは本当に強く思っています。ネットのサンプル動画とか、違法アップロードの断片だけを観て「これで満足したわ」と、わざわざ報告してくるような行為って、表現を作る側からしたら、飲食店に入ってタダでご飯を盗み食いして逃げる「無銭飲食」と全く同じなんですよ。
例えば、街角で配っているポケットティッシュやドリンクのサンプルなど。あれ、タダじゃないですからね?配布するために、人件費や広告費、材料費諸々かかっているわけです。売上のための宣伝なだけであって、タダやからラッキー!じゃないんですよ。最終的にお客さんホイホイに繋げないといけないので。生産者と消費者がいる、というか人が生きている限り世の中に「無料」なんて無いんですよね。
先程も無銭飲食と揶揄しましたが、違法アップロードに歓喜している人というのは犯罪最高っ!って言ってるようなものだと思うんです。
私たち演者だけでなく、監督、照明、音声、メーカーのスタッフ全員が、それこそ身を削りながら、一つの商品をゼロからプライドを持って作り上げているんです。パッケージのデザイン一つにだって、並々ならぬ思い入れがあります。だからこそ、ちゃんとお金を払って、一つの完成されたものとして最初から最後までリスペクトを持って観てほしい。ただの性欲処理の道具として消費されて、それで終わり、という態度に対しては、物作りをする生産者の立場として、どうしても譲れないプライドと怒りがあります。
◆これからの「牧村彩香」が目指す表現者としての再構築

牧村:これまでの海外のファンクラブサイトだと、どうしても日本のファンの方々には決済や登録の面でハードルが高くて、閉ざされた空間になってしまっていました。新しく始める国内の配信サイトは、すごく入り口が分かりやすくて、誰もが気軽にアクセスできる場所になっています。
そこで、加工された偽りの姿ではなく、がんという大病や引退という過酷な経験を経て、色々なものを削ぎ落とした「今の、ありのままのリアルな牧村彩香」を、ダイレクトに見ていただけるような場所にしたいなと思っています。これからの新しい私の世界を作っていく上での、非常に重要なファクター、大きな出発点になると思っています。
――これからは、過去の「セクシー女優」という枠に無理に自分をはめ込むのではなく、一人の自立した「表現者、あるいは生産者としての牧村彩香」としての完全な再構築になるわけですね。今後は、どのようなジャンルや課題に挑戦していきたいと考えていますか?
牧村:私、この芸能のお仕事や夜の世界、在宅の活動だけでなく、これまでの人生の中で、表の社会でも接客業、そして企業の中での「新人教育・現場を回す司令塔」といった業務に、かなり長く、深く携わってきた経験があるんです。1件のミスも許されないような、本当に厳格でピリピリした厳しいビジネスの現場で、徹底的にマナーやコミュニケーションのノウハウを叩き込まれてきました。
今のネット社会を見てみると、SNSでも日常の人間関係でも、ちょっとした言葉のすれ違いや、相手への想像力の欠如が原因で、不必要なトラブルや炎上があちこちで起きていますよね。私自身が厳しい現場で培ってきた「人対人のコミュニケーションのノウハウ」や、相手を不快にさせないための具体的なマナー。それは形式的なお辞儀の角度とかそういうことではなくて、本質的な「相手への思いやりを形にするマナー」なんです。そういったものを、若い世代や人間関係に悩んでいる人たちにアドバイスしたり、お伝えしたりしていくような教育活動、あるいは講演やコラム執筆といったジャンルにも、イチから挑戦してみたいと思っています。
――厳しいビジネスの現場での教育経験。そのロジカルな思考が、先ほどのビデオ通話のマーケティング分析や、作品のセルフプロデュース力にもすべて繋がっていたのですね。
牧村:すべては一本の線で繋がっているんだと思います。私は、どのような環境に身を置いたとしても、ただ流されて終わる人間にはなりたくない。常に自分の頭で需要を分析し、自分の手を動かして、誰かの救いや気づきになるような「ゼロからイチの価値」を生み出し続けたい。
がんになって体を壊したときは、一度はすべてを失ったと思いましたし、絶望に近い後悔もありました。でも、あの動けなかった2年間があったからこそ、自分の内面と徹底的に向き合い、物作りへの純粋な欲求を再確認することができました。発信することを恐れず、やめることなく、これからも「牧村彩香」という独自の表現世界を、自分の手で新しく作り上げていきたいと思っています。これからの私の歩みを、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。

セクシー女優としての活動、写真やアートへの関心、接客や社員教育の経験、病気による活動休止。そして、そこから再び人とつながり、自分で考え、自分で発信する現在。今回の話を聞いて印象的だったのは、牧村が過去のキャリアを単純に「過去のもの」として切り離していないことだった。
専属時代に演じていた「人妻」という設定にも、企画女優として広げた表現にも、写真を撮り続けてきた経験にも、現在の発信にも、それぞれに意味がある。
その一方で、これからは誰かが用意した設定に自分を合わせるのではなく、自分自身で「何を作るのか」を考えていきたいという。がんと合併症を経験したことで、それまで当然だと思っていた体の自由や、人と普通に話すことの意味についても考えるようになった。
「ゼロからイチの価値を生み出したい」。牧村が現在繰り返し語るこの言葉は、写真を撮り、作品を作り、仕事の現場で人と向き合ってきた彼女のこれまでの経験とも重なる。
2023年に一度途切れた活動は、以前と同じ形に戻ることを意味しているわけではない。今の体、今の経験、今の考えを持った牧村彩香が、自分自身で次の表現を作っていく。
その意味で、今回の再始動は「復帰」という一言だけでは表せない、新しい活動のスタートなのかもしれない。
【牧村彩香】
X:@yurinoxxxx
Instagram:@ayaka_makimura1010
<取材・文/髙坂雄貴(超次元電視いと、まほろば)、撮影/宇佐美亮>
―[牧村彩香]―
【髙坂雄貴】
合同会社いと・まほろば代表。ニコニコチャンネルおよびYouTube『超次元電視いと、まほろば』の運営、各種イベント・コンテンツの企画制作を手がける傍ら、サブカルチャー・エンタメ専門ライターとしても精力的に活動。演劇や映像制作などの現場で長年培ってきたキャリアを背景に、エンタメ業界への深い造詣とリスペクトを込めた執筆を展開。ファンとしての熱い視線と、プロの作り手としての冷静な制作視点の双方を織り交ぜた、温度感のあるテキストが多くの支持を集めている。X:@itotakasaka

