年収1000万円を超えると、人生の満足度の伸びが鈍くなる
お金が増えれば、私たちの生活は確かにラクになります。住む場所の選択肢が増え、経済的な不安定さは減り、できることも増えていきます。しかし、ある地点を超えると、お金が増えても安心感や幸福感の伸びは緩やかになっていくのです。
経済学には「限界効用逓減(ていげん)の法則」という基本原理があります。同じものを追加していっても、1単位あたりから得られる満足度は次第に小さくなっていくという考え方です。のどが渇いているときの最初の1杯の水は、身体中に染み渡るような満足感をもたらしてくれます。でも2杯目、3杯目と飲み進めるうちに、最初の1杯ほどの感動は薄れていくものです。
これと同じことが、お金と幸福の関係にも当てはまります。生活にゆとりがない状態から少しお金が増えたとき、不安が減り、安心感や満足感は大きく高まります。月末に「今月は乗り越えられた」とほっとできる瞬間は、お金が心にもたらす大きなプラスの力です。
しかし、ある程度の水準に達すると、そこからさらにお金が増えても、安心感や幸福感の伸びはだんだん小さくなっていきます。
例えば、手取りが月15万円から20万円に増えたときの安心感の変化と、月100万円から105万円に増えたときの安心感の変化を想像してみてください。同じ5万円の増加でも体感はまるで違うはずです。前者は生活の不安が大きく和らぐ変化ですが、後者はほとんど実感がないかもしれません。これがまさに、限界効用の逓減です。
カーネマンとキリングスワースらの研究でも、年収が上がるにつれて幸福度は上がり続けるものの、その上がり方のカーブは次第に緩やかになっていくことが確認されています。また、世界160数か国のデータを分析した2018年の別の研究では、年収約9万5000ドル(当時のレートで1000万円台前半)あたりで人生全体の満足度の伸びが特に鈍くなる傾向が報告されています。
ここから導かれる結論では、お金は安心の土台を作ります。しかし、幸福を無限に生み出す源泉ではありません。お金には「幸福の天井」があるのです。天井がないように見えるのは、まだ天井に届いていないか、天井の存在に気づいていないかのどちらかです。
お金を増やすこと自体に意味がないわけではありません。しかし「もっと増やせばもっと幸せになれるはずだ」という思い込みのまま走り続けると、ある地点から先は、頑張っても頑張っても幸福感が思ったようには増えないという、不思議な疲労感に直面することになります。
櫻井 かすみ
ママ金融投資家/ファイナンシャル・プランナー/株式会社トウシナビ 代表
