「いままで、誰にも言えなかった…」年に一度、総勢20人の親戚が築48年の実家に集まるお盆。46歳会社員の長男が一瞬にして“悪者”になった「ひと言」

「いままで、誰にも言えなかった…」年に一度、総勢20人の親戚が築48年の実家に集まるお盆。46歳会社員の長男が一瞬にして“悪者”になった「ひと言」

「思い出」と「負担」が衝突…兄妹の本音がぶつかった日

「俺もこの家を残したかった。でも、もう限界なんだ」

隆さんは1冊のファイルを取り出しました。なかには、この5年間支払ってきた領収書がまとめられています。固定資産税、火災保険、庭木の剪定、雨漏りの応急補修、害虫駆除、空き家管理……。金額は合計数百万円に達していました。

「言ってくれればよかったのに」

そういう佳代さんに、隆さんは苦笑していいました。

「何度も言おうと思ったよ。でも、おまえは『実家だけは残したい』って言うと思って」

沈黙が続き、やがて隆さんは意を決していいました。

「売りたくないなら、この家はおまえが継いでくれ。支払いも管理も全部引き受けるなら俺はなにも言わない」

すると、佳代さんは小さく答えました。

「……そんな余裕、ない」

部屋を出た2人の空気は重いままでした。佳代さんは居間へ戻るなり、感情を抑えきれなくなります。

「お兄ちゃん、この家を売ろうとしてる」

親戚たちの視線が一斉に隆さんへ向きました。

「えっ、売るの?」「思い出までなくさなくても……」「お父さんも残したかったんじゃない?」

隆さんは反論せず、妹に見せたファイルをテーブルへ置きました。叔父がつぶやきます。

「……全部、おまえが払ってたのか」

隆さんはうなずきました。兄が負担していたのは、お金だけではありません。時間や労力、そして誰にも言わず抱えてきた気苦労も背負っていたのです。

「庭木の枝が道路にはみ出しています。空き家になってから、雑草もかなり伸びていますよ」

隆さんのもとには、近隣住民からこうした連絡がたびたび届いていました。市役所からも管理について注意が入り、雨漏りが見つかった際には応急修理のためにわざわざ自宅から駆けつけたこともあります。家は、誰かが住んでいなくても少しずつ傷み、放っておけば問題は増えるだけです。

「共有名義」の解消と「売却」を選択

険悪なお盆から数日後、兄妹は相続に詳しい専門家のもとを訪れることに。2人の話を聞いた専門家はいくつかの選択肢を示しました。

・一方が取得し、代償金を支払う

・売却して公平にわける

・賃貸として活用する

話し合いを重ねた末、兄妹は共有名義を解消し、実家を売却することにしました。

そして、翌年のお盆。2人は前の年と同じように、父の墓前に立っていました。実家はもうありません。それでも隆さんと佳代さんは、並んで線香をあげていました。2人は朽ちていくばかりの実家ではなく、一度壊れたらもとに戻せない家族の絆を守ることにしたのです。

 “平等”よりも「仕組み」が家族を守る

今回の兄妹のように、「実家を残したい」という想いと、「現実的な負担」とのあいだで苦しむケースは珍しくありません。

親がのこしてくれた実家には、お金では測れない思い出があります。だからこそ、「売りたくない」という気持ちも理解できます。しかし、不動産は感情だけで維持できるものではなく、固定資産税や修繕費、管理費など、所有している限り現実的な負担が発生し続けます。

親は、「平等にわければ仲良くやってくれる」と信じて共有名義を選ぶことがあります。しかし、筆者は現場で、“平等”が責任の所在をあいまいにし、家族を追い詰めていく場面を何度も見てきました。

親が子どもへ本当に残すべきは、「家族が争わなくて済む仕組み」です。それこそが、残された子どもたちにとって最も価値のある財産といえるのではないでしょうか。

萩原 峻大

東京財託グループ 代表

資産形成・経営アドバイザー

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