「サ高住、引き払っちゃった」施設入居も5ヵ月で逃亡…実家の居間でモジモジする84歳母を、56歳長男が目撃。母が吐露した想定外の“出戻り理由”【FPが解説】

「サ高住、引き払っちゃった」施設入居も5ヵ月で逃亡…実家の居間でモジモジする84歳母を、56歳長男が目撃。母が吐露した想定外の“出戻り理由”【FPが解説】

サ高住はどんな施設なのか?

「私が間違っていたんでしょうか。サ高住なら安心だと思ったんです」

真剣な眼差しで訴える隆志さんに対し、筆者は次のようにアドバイスしました。

「隆志さんの考えは自然なものですよ。ただ、一つ整理しておきたいのは、サ高住は介護施設ではなく、あくまで賃貸住宅だという点です。法律で義務付けられているのは、安否確認と生活相談の2つだけ。食事や介護は基本的にオプションか外部サービスです。つまり、見守ってはくれますが、暮らしの張り合いまで用意してくれる場所ではないんです」

「たしかに、パンフレットに書かれている設備のよさばかり見ていました」

「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」は2011年に登録制度が始まった比較的新しい住まいで、2026年3月末時点で全国8,337件・約29万戸まで増加しています。

国土交通省「令和5年8月末時点の登録情報集計」によると、家賃・共益費・サービス費を合計した基本費用の全国平均は月約11万円。食費なども含めた実際の月額費用は、民間の調査では中央値で16万円台半ばというデータもあります。

一方、受け取る側の年金はどうでしょうか。厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金(基礎年金含む)の平均月額は男性16万9,967円に対し、女性は11万1,413円。文枝さんの13万円は女性としては平均より多いほうですが、それでもサ高住の費用には届きません。

「うちの場合、毎月3万円の取り崩しに加えて、空き家になった実家の固定資産税や光熱費の基本料で月1万5,000円ほど。合わせて月4万5,000円の持ち出しでした」

「そうなんです。実家を残したまま入居すると、住まいの費用を二重に払うことになる。仮に月4万5,000円なら年間54万円、10年で540万円です。1,100万円の貯蓄の半分が、住まいの重複だけで消えていく計算になります。お金の面でも、気持ちの面でも、今回の出戻りは合理的な判断だったと私は思いますよ」

その言葉に、隆志さんの表情が少し和らぎました。

実家に介護を“足し算”する手も…本人も家族も安心できる選択を

「では、母はこのまま実家で暮らしていいんでしょうか。私はやっぱり転倒が怖くて……」

「安心を施設にまるごと外注するのではなく、実家に足していくという選択肢があります。たとえば自治体や民間の緊急通報サービス、センサー型の見守り機器なら月数百円~数千円程度で済みます。要支援・要介護認定を受ければ、介護保険でデイサービスや訪問型のサービスも使えます。文枝さんの場合、自宅に住んだまま週に数回人と関わる仕組みを足し算するほうが、費用は月1万~2万円程度で済み、役割も奪いません」

「そして、将来また住み替えを考えるときは、設備や料金表に着目する前に、平日の昼間に見学してみることをお勧めします。そのときは、食堂や共用部の様子、行事の頻度、入居者の平均要介護度を確認してください。元気な方が少ない住宅だと、自立している人ほど孤立しやすくなります。また、体験入居ができるならぜひ活用してください。それから、入居を決めるときは『住まいの二重払い』を避けるために、実家を貸すか・売るかという選択肢も同時に検討すること。住まいの計画とお金の計画は、常にセットです」

現在、文枝さんは実家で暮らしながら、週2回のデイサービスに通っています。「町の花壇当番、復帰したのよ」と笑う母を見た隆志さんはこう話してくれました。

「安全な場所を用意することが親孝行だと思っていました。でも母に必要だったのは、守られることじゃなくて、必要とされることだったようです」

高齢期の住まい選びで最初に問うべきは、どこなら安全かではなく、どこならその人らしい暮らしが続くのかです。そのうえで、年金・貯蓄・実家の扱いまで含めた資金計画を立てること。この順番さえ間違えなければ、介護や多様な住まいの選択肢はきっと味方になってくれるはずです。

波多 勇気

波多FP事務所 代表

ファイナンシャルプランナー

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