多子世帯支援の制度拡充に抱く「狭間の世代」の複雑な胸中
2025年度から、3人以上の子どもを扶養する多子世帯を対象に、大学の授業料・入学金を一定額まで支援する制度が始まった。Aさんの家庭は、まさにその対象となるような世帯だった。
「本当にいい制度だと思います。これからは、うちみたいな家庭でも3人とも借金を背負わずに大学へ行ける可能性が広がるわけですから。でも同時に、『うちは3人兄弟なのに、誰一人その制度を受けられなかったんだな』とも思いました。弟とも『あと少し遅かったら違ったよね』なんて話をすることがあります。制度が前に進んだことはうれしい反面、自分たちはちょうど狭間の世代だったんだと感じます」
制度そのものを批判したいわけではない。それでも、生まれたタイミングが数年違うだけで、一家が抱える負担が大きく変わるという事実には、複雑な思いを抱かずにはいられない。
制度の拡充とともに求められる「返済をしている人」への支援
Aさんの事例が示しているのは、奨学金が個人の問題であると同時に「世帯の問題」だということだ。兄弟3人がそれぞれ200万円台の奨学金を借りれば、一家全体では750万円近い返済を抱えることになる。一人ひとりで見れば珍しくない金額でも、世帯全体で捉えれば決して小さな負担ではない。
子どもの人数が増えるほど教育費は膨らみ、奨学金に頼らざるを得ないケースも増える。その結果、卒業後には兄弟それぞれが返済を抱え、長期間にわたって家計へ影響をおよぼすことになるのだ。
2025年度に始まった多子世帯への支援拡充は、教育費負担を軽減する大きな前進といえる。しかしAさんの言葉が示すように、その恩恵を受けられるのは、これから進学する世代が中心だ。すでに奨学金を借り、返済を続けている人たちの状況は変わらない。
だからこそ今後は、新たな支援制度を整えるだけでなく、返済中の若者への支援も併せて考えていく必要があるのではないか。所得に応じた返還制度の充実や、自治体・企業による返還支援など、卒業後の負担を軽減する取り組みも重要だろう。
子どもを育て、進学を応援した家庭ほど負担を抱えやすい――そんな構造を変えていくことこそ、社会全体に求められている。
大野 順也
アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長
奨学金バンク創設者
