空白の3年間に母を襲っていた“まさかの悲劇”
目の前に飛び込んできたのは、高く積み上げられた段ボール箱とゴミ袋の山だったのです。急いで靴を脱ぎ、居間へ向かうと、不思議そうにこちらを見つめるマサヨさんと目が合いました。
「どうしたの、急に来るなんて……びっくりしたよ」
どうやら、先週電話で帰省を伝えたことはすっかり忘れているようです。さらに、シンクには洗われていない食器が山積みになっていました。
「家がずいぶん荒れているみたいだけど、どこか具合でも悪いの?」とミツルさんが問い詰めても、「別に……元気だよ」と、電話口で聞くのと同じ言葉が返ってくるばかり。
ふと食卓に目をやると、マサヨさんの財布が無造作に置かれています。中を確認すると、小銭と共に大量のレシートが押し込まれていました。
「母さん、たしか家計簿つけていたよね。ちょっと見せてくれない?」
「家計簿なんてつけてないよ」というマサヨさんの空返事に、いよいよ違和感を覚えたミツルさんは、通帳を確認することにしたのです。すると、2ヵ月前に300万円も引き出されている形跡を発見しました。
問い詰めると、マサヨさんは「銀行員を名乗る男に一時的にお金を預けた」と口にしたのです。詐欺にあったことは明白でした。ミツルさんは予定を変更して、その日から2週間あまり実家に滞在することにしました。
母と一緒に警察へ出向いて被害届を出しつつ、「健康診断をしておこう」と母に言い含めて、この地域で一番大きな総合病院へ連れて行きました。
一通りの検査を終え下された診断は「認知機能の低下がみられる」とのことでした。しっかり者の母が、詐欺行為に気づかなかったのはそのせいだったのでしょう。
ミツルさんは、電話口での母の「元気だよ」という言葉を過信しすぎてしまったことを深く悔いています。「定期的に母親の元を訪ねていれば、もっと早く異変に気づくことができたのに」と、自分を責めています。
【CFPの助言】離れて暮らす親の“異変”に気づくには?
健康寿命が延びている一方で、65歳以上の認知症およびMCI(軽度の認知機能低下)の有病率は増加傾向であることがわかっています。
普段、親とのコミュニケーションが頻繁でない場合、「親の異変に気がつかなかった」というケースは少なくありません。認知機能は一気に低下するのではなく、少しずつ変化していくため、離れて暮らしている家族ほど気づきにくいものです。
毎月定期的に電話をすることは一定の効果はありますが、「元気?」「元気だよ」というやりとりだけでは、生活の変化をすべて把握することは難しいことがわかります。
たとえば、もう一歩踏み込んだ具体的な質問「今朝は何を食べたの?」「昨日は何してたの?」「何か困っていることはない?」など具体的に聞いてみることで、小さな違和感や認知機能の変化に気づくきっかけになることがあります。
普段、筆者自身が相談を受けていて感じることは、「自分の親は大丈夫」という思い込みを持っている相談者が少なくないことです。もちろん、親が歳を重ねていることはわかっていても、「変わらずにいてほしい」という願望が「まだ、大丈夫」という希望的観測に変換されてしまっているのかもしれません。
