「あんたに言うと大ごとになるから…」いつも電話で元気いっぱいの年金11万円・82歳独居母を訪ねた53歳息子、実家の風呂場で見つけた〈大問題〉【FPが解説】

「あんたに言うと大ごとになるから…」いつも電話で元気いっぱいの年金11万円・82歳独居母を訪ねた53歳息子、実家の風呂場で見つけた〈大問題〉【FPが解説】

高齢親の一人暮らし、「浴室」の危険性

厚生労働省「2024(令和6)年国民生活基礎調査」によると、65歳以上の方がいる世帯のうち、単独世帯が32.7%で最も多く、夫婦のみの世帯(31.8%)を上回りました。高齢者の暮らしの標準が、すでに一人暮らしへ移りつつあるということです。

そして一人暮らしの浴室は、統計上かなり危険な場所です。消費者庁の注意喚起によれば、2024年に浴槽内での溺死や浴槽への転落による溺死・溺水で亡くなった方は7,776人。そのうち65歳以上が7,363人と、約95%を占めています。しかもこの事故は冬場に増える傾向があります。暖かい居間から寒い脱衣所へ移り、熱い湯につかる。この急激な温度差が血圧を大きく変動させ、いわゆるヒートショックを招くためです。

さらに、要介護(要支援)の認定を受けている方の割合は、85歳以上になるとおよそ6割にのぼります。82歳の和子さんは、いつ支援が必要になってもおかしくありません。

一人暮らしの場合、浴室で倒れても、誰もすぐには気づきません。発見が何日も遅れるケースは、決して例外的な話ではないのです。「風呂に入らなくなった」は、単なる生活習慣の変化ではなく、転倒への恐怖や体力の衰え、そしてお金の不安が重なった結果として現れる、生活が縮んでいくサインです。

次の冬が来る前に…いまからでも間に合う「3つ」の手当て

こうした母の変化に夏の帰省で気づけたことは、実は幸運といえます。事故が増えるのは冬。まだ4ヵ月あります。筆者が健太さんにお伝えしたのは、次の3つです。

1.地域包括支援センターに電話をする

市町村が設置している高齢者の総合相談窓口では、介護保険の申請が行えるだけでなく、認定が出ていない段階の相談にも無料で応じてくれます。

2.介護保険の住宅改修と福祉用具を使い切る

要支援・要介護の認定を受けると、手すりの取り付けや滑りにくい床材への変更、段差の解消といった工事に、原則20万円までの支給枠が使えます。自己負担は所得に応じて1〜3割ですから、18万円の工事でも1割負担なら1万8,000円程度で済みます。浴槽用手すりや入浴用いすといった入浴補助用具も、年度あたり10万円を上限に同じ割合の負担で購入できます。

ただし、住宅改修は事前申請が必要です。工事を発注する前に、必ず窓口へ相談してください。

3.見守りの仕組みを“買う”

たとえば、日本郵便のみまもり訪問サービスは、郵便局の社員が月1回30分ほど訪問し、写真付きで様子を報告してくれて月額2,500円(税込)です。自治体の配食サービスや、電気の使用状況で異変を知らせる見守りも各地にあります。月に数千円で、電話の「元気よ」だけではわからない情報を得ることができます。

入浴そのものの注意点も伝えておきましょう。消費者庁は、下記を注意点として挙げています。

・脱衣所と浴室をあらかじめ暖めること

・入浴前に水分をとること

・湯温は41度以下

・つかる時間は10分までを目安にすること

・浴槽から急に立ち上がらないこと

また、脱衣所用の小型ヒーターなら数千円から用意できます。

健太さんは、筆者に相談後、和子さんに480万円ほどの預貯金があることを確認したうえで、こう切り出しました。

「母さん、ガス代をケチって湯船をやめるのは、いちばん高くつく節約なんよ。そのままだと怖いと思うけん、俺手伝うから、手すりを付けて、脱衣所を暖めよう。もし冬の光熱費が足りんかったら、俺が毎月1万円送るけん。このお金は、僕が安心を買うための費用やけん、気にせんでな」

和子さんは、それでようやく「ほんとはね、湯船につかりたかったんよ」と漏らしたといいます。

老後のお金のご相談を受けていると、「使えないお金」を抱えたまま生活を必要以上に縮めている方に本当によく出会います。480万円の貯蓄から20万円を安全のために使うことは、浪費ではありません。これから先の暮らしを守るための、もっとも確実な投資です。

電話の声は、いくらでも元気に作れます。しかし、風呂場と玄関と庭は嘘をつきません。実家に帰ったら、ぜひ浴室のドアを開けてみてください。乾いた浴槽は、親御さんがいえずにいる言葉の代わりに、なにかのメッセージを訴えかけているかもしれません。

波多 勇気

波多FP事務所 代表

ファイナンシャルプランナー

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