●見えないところで子どもたちは大きなプレッシャーを抱えている
「すでに上のお子様で中学受験を経験済みのお母様、または、ご自身が中学受験体験者であるお母様は、あまり心配ないと言えますが、注意して頂きたいのは、“中学受験を初めて体験する”というお母様。残すところわずかとなった今、わが子を愛するが故に、つい前のめりになり、ガツガツしがちですが、ぜひともそこで立ち止まって冷静に、客観視することを心がけてほしいです。なぜなら、お子様たちは、一見そうは見えなくても、それぞれに大変大きなプレッシャーを抱えているからです。以下の心得をいつも肝に銘じて、最後まで温かくお子様たちの奮闘を応援してあげて下さい! 小学校受験は”親の受験”とも言われますが、中学受験は、もう親の受験ではありません。”子ども自身の受験”であることをどうか忘れないでください」(賀一氏 以下同)
●中学受験ママ心得
1.朝にかつ丼を食べさせる、朝風呂に変える、受験前に神社に行かせるなど、今になって特別なことをしない。
2.怠惰なら怠惰なままで対策を考える。親が根本的な性格を変えようとあくせくしない。
3.受験初日にすべてを賭けない。せめて親だけは、受験をロングスパンで考えておく。
「まず1ですが、よく塾の先生方から、“受験時間に脳のコンディションをベストに持っていくため、遅くとも1カ月前には朝型に変えてください”とアドバイスされますよね。でも僕は、そういう習慣のない子には、あまり必要ないと考えます。理論的には正しいかもしれませんが、例えば、これまで順調にやってきたのに、突然朝型にする、脳を目覚めさせるために朝シャワーにする、合格鉛筆が人気の某神社にお参りに行く…など、これらすべて、子どもたちへのプレッシャーにつながってしまうからです。お子様自身が、“合格鉛筆がほしいから、神社に行こう!”というのであれば、もちろん親として一緒に行ってあげるべきでしょうが、特に言わないのであれば、合格祈願なども僕はあまりおすすめしません。合格祈願のダジャレ系お菓子も同様で、プレッシャーに弱い子は、特に気をつけた方がいいと思います。本人にとっては、まるでシャレになっていませんから。突然朝シャワーに変えて風邪をひいた、いきなりかつ丼やかつサンド(勝つ三度)を食べてお腹を壊した、僕はそんなケースを、大手進学塾勤務時代にたくさん目にしてきましたから…」
2については、親が欲張りすぎると語る賀一氏。
「そもそも受験は人生の通過点でしかありません。特に、中学受験であればなおさらのこと。例え合格しなかったとしても、寒いなか、夜遅くまで塾に通い、遊びたいのも我慢して、彼らはとてもよく頑張りました。その功績だけで十分褒めるに値するのです。受験を通して、ついでに元々持っている子どもの性格まで変えようなんて、欲張りすぎではないかと…。怠惰な子なら、せめて机に座っている時間だけは集中させる、緊張するお子様なら、そのまま緊張して本番を迎えればいいのです。その子のペースを何よりも大切にしてほしいと思います」
3についても、親はつい、初日ですべてを決めようと焦るものだが…。
「子どもは“初日に絶対決めてやる!”そういう気持ちでいてくれるのがベストですが、親も興奮してそうなってしまうのはNG。実は、首都圏全域の中学受験は、初日から最後の受験まで、最長で2週間以上あります。例え初日に落ちたとしても、小学生ましてや中学受験の内容だったら、1週間もあればまだまだ学力は伸びていきます。特に、初日の入試で”まずい!”という危機感を得て、国語の漢字や社会の暗記などをやり込めば、たった1週間で偏差値が20以上上がる子もいます。親御さんが、最初からロングスパンで受験を考えていれば、志望校に落ちた時の対策も練りやすいし、“この学校は肩慣らしで、落ちると思っていたから大丈夫!”という冷静さが、お子様を安心させます。いよいよ決戦の時を迎えますが、いつも通りで大丈夫! 受かっても落ちても、この受験勉強で知識が増え、思考力が養われ、視野が広がるのです。“受験を通して成長したな…”そう感じられれば、どんな受験でも成功したと言えるのではないでしょうか」
(取材・文/蓮池由美子)