退職時に引継ぎしない従業員への対処法|損害賠償請求は可能?

退職時に引継ぎしない従業員への対処法|損害賠償請求は可能?

3、引継ぎしない退職を防止する方策

引継ぎしないで退職する従業員に対しては、前項でご紹介したように、一定の措置を取ることは可能です。

しかし、会社としては、引継ぎをしない退職そのものを防止したいところです。そのための方策としては、以下のようなことが考えられます。

(1)就業規則による義務付け

まずは、就業規則に、「退職する前に、十分な引継業務を行うこと」を義務付ける規定を設けましょう。

そして、従業員から突然の退職の申出があった場合には、就業規則に従って、退職手続を行うように指示するのです。

前記「1(2)」でご説明したように、就業規則にこの規定を設けても、引継ぎしない退職を完全に禁止することはできません。

しかし、一定の抑止効果は期待できます。そのためには、普段から、就業規則の内容を従業員に周知しておくことも重要です。

(2)退職予告期間を長期化

次に、就業規則で、退職予告期間を長めに設定しておくことも有効です。例えば、「退職する日の30日以上前に申出すること」などを、退職の手続として規定しておくのです。

こうすることによって、有給休暇日数が足りない従業員の場合、一定の日数は、出勤を続ける必要があるので、その間に引継業務を指示することができます。

ただし、法律上は、従業員が退職を申出してから2週間が経過すると、退職の効力が発生します(民法第627条第1項)。そのため、有給休暇日数を含めて、2週間を超える出勤を強要することはできないことに、注意が必要です。

また、出勤を指示しても、欠勤する従業員に対して、出勤を強制することはできません。

それでも、一定の抑止効果は期待できるでしょう。

(3)退職金不支給規定の設置

前記「2(4)」でご説明したように、引継ぎしないで退職する従業員の退職金を、減額できる可能性は十分にあります。

ただ、不意打ち的に退職金を減額するのは不当なので、あらかじめ就業規則に、退職金の不支給事由を明記しておくことが必要です。

また、引継ぎしないで退職すると、退職金が減ることを従業員に対して事前に周知してこそ、抑止効果が高まります。

4、退職する従業員に引継ぎをさせる方法

ここまで、引継ぎしない従業員に対して、取りうる措置と予防策をご紹介してきました。

しかし、いざ従業員から、突然の退職を申出された場合、会社としては、何とか引継ぎをしてもらいたいと思うことでしょう。

従業員に引継ぎをさせる方法としては、以下のような方法が考えられます。

(1)話し合い

従業員に引継ぎを強制できる法律がない以上、引継ぎをさせるためには、話し合うしかありません。

退職を申出した従業員の事情にも十分に配慮しつつも、引継ぎの必要性を説明し、退職日を先に延ばして、引継ぎをしてもらえるように、交渉しましょう。

引継ぎしやすい方法を提案することも有効です。メールや手紙のやりとりで引継ぎが可能なら、出勤を強要する必要はありません。

(2)インセンティブの提供

どうしても引継ぎをしてもらいたい場合は、退職する従業員と敵対するのではなく、頭を下げてでも、お願いする方が得策といえます。

その場合、従業員にインセンティブを提供するのが有効です。つまり、有利な条件と引換えに、引継ぎしてもらうように、交渉するのです。

インセンティブとしては、以下のようなものが考えられます。

  • 有給休暇の買取り
  • 退職金の増額
  • 退職理由を会社都合とする

ただし、あからさまにインセンティブを提供すると、後に、他の従業員が退職する際にも、インセンティブを要求されることになりかねません。

インセンティブの提供は、最終手段と考えておいた方がよいでしょう。

(3)日頃からの信頼関係が重要

退職する従業員に、円滑に引継ぎをしてもらうためには、結局は、日頃から信頼関係を築いておくことが重要です。

突然、引継ぎしないで退職する従業員が発生してからでは遅いですが、今後もそういった事態が続出しないように、従業員との信頼関係を、少しでも深めるようにしましょう。

また、具体的な作業マニュアルを作り、的確な作業日報の記載を義務付けておけば、従業員の仕事ぶりも把握しやすいですし、引継業務も容易になるでしょう。

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