3、差し押さえられた給料の支払い方法
差し押さえられた給料は債権者へ支払う必要がありますが、具体的にどのような手順を踏めば良いのか分からない方も多いことでしょう。ここでは、その点についてご説明します。
(1)債権者が1社のみの場合は取り立てに応じて支払う
債権者が1社のみの場合、つまり裁判所から届いた給料差押え通知が1件のみの場合は、その債権者からの取り立てに応じて支払えば足ります。
通常は、陳述書を提出した後に債権者の方から連絡があり、振込先口座なども伝えてくるはずです。
その指示に従って、振り込みましょう。なお、振込手数料は債権者負担なので、差し引いた金額を振り込めば足ります。
(2)債権者が複数いるときは法務局へ供託する
債権者が複数いるとき、つまり同一の従業員に対して裁判所から複数の給料差押え通知が届いている場合には、注意が必要です。
この場合には、差し押さえられた給料を勝手に振り分けて各債権者へ支払うのではなく、供託をしなければなりません(民事執行法第156条2項)。
供託とは、差し押さえられた給料を法務局に預けることをいいます。預けた給料は、裁判所が各債権者に対して公平に配当することになります。
供託をしたときは、その事情を裁判所に届け出なければなりません(民事執行法第156条3項)。
給料差押え通知に「事情届」という書類も同封されていますので、それに記入して裁判所へ返送しましょう。
4、従業員の給料差押えについてよくある疑問
従業員の給料差押えに対して、会社がやるべきことや注意点をひと通りご説明してきました。
しかし、他にも様々な疑問があると思いますので、ここでまとめてお答えいたします。
(1)陳述書に嘘を書いたり提出しなかった場合はどうなる?
その場合は、前記「2(3)」でもご説明したように、債権者に対して民事上の損害賠償義務を負う可能性があります(民事執行法147条2項)。
また、刑事上も強制執行妨害目的財産損壊等の罪(刑法第96条の2)に問われることがあり得ます。
会社が従業員を守るために、陳述書に「その従業員は退職した」と記載したり、給料額を実際よりも低く記載したりするケースもままあるようですが、上記のペナルティを課されるおそれがありますので、ご注意ください。
(2)債権者から連絡がないときはどうすればよい?
貴社から債権者に連絡する義務はないのですが、放置しておいても債権者に対する支払い義務から免れることはありませんので、できれば連絡をとった方が良いでしょう。
もし、連絡がつかない場合や、何らかの事情で連絡したくない場合には、差し押さえられた給料を法務局で供託すれば、会社は免責されます。
(3)従業員が「既に返済した」と言う場合は給料を支払ってよい?
従業員に対して給料が差し押さえられたことを告げて「あなたには支払えない」と言うと、従業員から「借金はもう返済したので、給料は私に支払ってください」と言われることもあるでしょう。
しかし、金銭に窮した人は嘘をつく可能性もあるので、軽信してはいけません。
仮に従業員が返済しているとしても、差押え債権目録に記載されている金額を完済したのでない限り、会社は差し押さえられた給料を債権者へ支払う義務があります。
それにもかかわらず、従業員へ給料を支払ってしまうと、債権者に対しても二重払いしなければなりません。
したがって、従業員から支払いを求められても、支払ってはいけません。従業員の言うことが本当かどうか悩ましい場合は、供託すればよいでしょう。
(4)差押えはいつまで続く?
差し押さえられた給料の額が債権者の請求額(差押え債権目録に記載されている金額)に達するか、債権者が取り下げるまで続きます。従業員が退職すれば、債権者はやむを得ず取り下げることになります。
それまでは毎月、前記「3」でご説明したのと同様の処理を続ける必要があります。
(5)差押え通知が詐欺の場合もある?
「債権差押命令」を装った詐欺は見聞きしたことありませんが、可能性はゼロとまではいえません。
裁判所から届いた書類に裁判所名と書記官名が書いてあるので、本当に裁判所が適法に発行した書類なのかを電話で確認してみるとよいでしょう。
配信: LEGAL MALL