「いいママ=叱らないママ」という大誤解

第1回 「ほめて育てる」に潜むリスク
なかなか思い通りにならないわが子に、募り募ったイライラが大爆発! でもしばらくしてから「また、やっちゃった…。もっと“いいママ”になりたいのに」と自己嫌悪のため息をついたこと、親なら誰しもあるのでは?

でもちょっと考えてみてほしい。「叱るママ」が「ダメなママ」で、「叱らないママ」が「理想のママ」? そんな風な世間のイメージにとらわれていないだろうか。

話題の新刊『ほめると子どもはダメになる』によると必ずしも「ほめて育てる」は正解ではないのだという。教育心理学の現場で長いキャリアを持つ著者の榎本博明先生に話を聞いた。

「いいママ=叱らないママ」という大誤解

●「ほめて育てる」が必ずしも正解ではないワケ

「日本では1990年代から『ほめて育てる』『叱らない子育て』といった教育方法がもてはやされるようになり、『叱らないお母さん=よいお母さん』という考え方が広まりました。ところがその結果、厳しく鍛えられないまま大人になったため、社会の荒波に揉まれることに耐えられない若者が増加しているのです」(榎本先生 以下同)

本来ならば自己肯定感を育むはずの「ほめて育てる」育児が、なぜ打たれ弱い子を育てることになってしまうのだろう?

「叱られてシュンとする子どもの姿は親の目にはかわいそうに映るでしょう。でも親が叱らないせいでやるべきことができなかったり、粘り強くがんばることができなかったりしたまま成長して大人になったら? それこそ本当の意味で『かわいそう』ではないでしょうか」

そもそも親が子を「叱る」のは、望ましくない行動や歪んだ考え方を改めさせるため。「叱る」という行為は、わが子が社会に適応して力強く人生を切り開いていける人間にするための親の責務なのだ。

●いいママ=適切に叱ることができるママ

それでは親としての「正しい叱り方」とはどんなものだろう?

「ついカッとなってしまい、感情的に叱りすぎて後悔することがしょっちゅう…という親も多いでしょう。叱り方のポイントは、悪いことをしたらすぐにビシッと叱ること。そして最も重要なのは、人格攻撃・人格否定をしないことです」

「こんな悪い子、いらない」「お母さんはそんな子、嫌いだからね」といった叱責は望ましくない。それらは子どもの「行為」ではなく、「人格」をまるごと否定する恐怖の言葉だからだ。

「幼い子どもにとって一番恐ろしいことは、親に見捨てられること。『要らない』『そんな子嫌い』といった人格を攻撃したり、否定したりする言葉は使わないほうがいいでしょう。叱るときはあくまでもその子がした行動・行為について叱るのだということを心がけてください」

「いいママ=叱らないママ」という大誤解

●適切に子を叱る2つのポイント

そもそも、わが子の行動にイライラしてカッとなってしまうのは、子どもではなく親自身の感情コントロールの問題だ。だが教育心理の専門家である榎本先生も、自身の子育てを振り返ると反省することも多いという。

「親だって生身の人間ですから、最初から模範的な叱り方などできるわけがない。つい言い過ぎるようなことがあるのも当然です。僕も叱られて泣きながら寝入ったわが子の目のまわりにたまった涙を見て『ちょっと言い過ぎちゃったなあ』とかわいそうに思うこともよくありました」

親として毅然と叱れるようにするには、自分自身の気持ちの問題を振り返って整理しておくことも大切だ。「感情的にならない」「人格を否定・攻撃しない」という2つのポイントを常に心にとめておこう。

「感情的になって一時的に険悪になっても、翌日になれば子どもは案外ケロッとしているもの。日頃の関係づくりがしっかりできていれば大丈夫ですよ。何のために叱るのか、その意味を親自身がきちんと自覚していれば、自信をもって正しく叱ることができるはずです」

そもそも一度も「叱らない」で子どもを育てるなんてことは絶対に不可能な話。「かわいそう」という近視眼的な思い込みにとらわれず、適切な「叱り方」をできるように親も日々努力していこう。
(阿部花恵+ノオト)

お話をお聞きした人

榎本博明
榎本博明
MP人間科学研究所代表
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝勤務後、東京都立大学大学院へ。大阪大学大学院助教授、大阪府家庭教育カウンセラーなどを経てMP人間科学研究所代表。
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝勤務後、東京都立大学大学院へ。大阪大学大学院助教授、大阪府家庭教育カウンセラーなどを経てMP人間科学研究所代表。