自衛隊は違憲?改正は必要?憲法9条の解釈について分かりやすく解説

自衛隊は違憲?改正は必要?憲法9条の解釈について分かりやすく解説

3、憲法と自衛隊の関係

憲法と自衛隊の関係は常に議論の対象になります。

その憲法と自衛隊の関係について確認していきましょう。

(1)そもそも自衛隊とは

自衛隊とは、自衛隊法に基づき、日本の平和と独立を守り、国の安全を保つために設置された部隊および機関です。

  • 陸上自衛隊
  • 海上自衛隊
  • 航空自衛隊

の3部隊から構成されています。

自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣で、防衛大臣が隊務統括を担っています。

このように、自衛隊は、内閣から独立した組織ではなく、内閣のコントロールが及んでいる点(シビリアン・コントロール)が特徴です。

(2)政府は自衛隊が憲法9条によって放棄される「戦力」にあたらないと解釈している

憲法9条2項前段にいう「戦力」とは、「自衛戦争を遂行するための戦力」を含む「一切の戦力」をいうのでした。

自衛隊が「自衛戦争を遂行するための戦力」にあたるとすると、自衛隊は、憲法9条2項前段に違反するのではないでしょうか。

この点について政府は、「自衛のための必要最小限度の実力」は、憲法9条2項前段の「戦力」にあたらないと解釈しています。

そして、自衛隊は、「自衛のための必要最小限度の実力」にあたるため、憲法9条2項前段の「戦力」にあたらないとしています。

他国からの侵攻を受けたとき、これに対する防衛活動を行うことは、自国の生命・身体の安全を確保すべき国家の任務といえます。

したがって、このような「自衛」活動を行うための「必要最小限度の実力」を保持すること自体は、憲法9条2項前段によっても禁止されていないと政府は解釈しています。

(3)過去の裁判例でも憲法違反とは判断されていない

①長沼ナイキ事件(札幌高裁昭和51年8月5日判決)

この事件では、農林大臣が航空自衛隊のミサイル施設を設けるために保安林指定の解除を行ったところ、地元住民が保安林指定の解除処分の取消を求めた事件です。

保安林解除処分の取消の根拠とされたのが、自衛隊が憲法9条に違反し違憲であるというものでした。

第1審裁判所は、自衛隊の設置は憲法9条2項に違反し無効であるとしました。

しかし、控訴審裁判所は、自衛隊について、国家の政治過程の根幹に関わる問題であり、極めて明白に違憲無効でなければ司法審査の対象にはならないとしていわゆる統治行為論で自衛隊の合憲性に関する判断を回避しています。

②百里基地訴訟(水戸地裁昭和52年2月17日判決)

この事件では、地主から航空自衛隊の基地設置予定地を購入した者が、その後、同土地を国に売却した地主と国に対し、売買契約の無効等を主張した事件です。

売買契約が無効であることの理由の1つとして主張されたのが、自衛隊が憲法違反である(したがって自衛隊基地の設置を目的とする売買契約は無効である)というものでした。

これに対して裁判所は、自衛隊の合憲性についてここでも統治行為論により、自衛隊の合憲性に対する判断を回避しています。

(4)自衛隊が憲法9条違反となる場合はある?

以上の裁判例をよく読むと、裁判所が、「自衛隊は憲法9条に違反しない」というのではなく、一見明白に戦力だと断定できないというような微妙な表現を取っていることが読み取れます。

これは、裁判所が、自衛隊が憲法に違反するかどうかの判断にあたって、前記のとおり統治行為論により司法判断を回避しているためです。

そうすると逆に、自衛隊の組織や編成、装備が、「一見明白に憲法に違反する」ものとなった場合には、憲法に違反するという判断となる可能性もあります。

極論ですが、

  • 自衛隊が核兵器を保有するといった事態になった場合
  • 他国を侵略するための準備を具体的に行っていることが認められた場合

には、自衛隊が違憲となる可能性が出てくるかもしれません。

このように、自衛隊は、無制限に憲法に違反しないとされているわけではないことには注意が必要です。

4、最近問題となっている集団的自衛権は認められる?

(1)個別的自衛権と集団的自衛権の定義

個別的自衛権とは、自国が他国から侵略を受けたときに、これに対して防衛活動を行う権利のことをいいます。

これに対し、集団的自衛権とは、日本と密接な関係にある他国が他の国から侵略を受けたときに、侵略を受けた国と一緒になって防衛活動を行うことをいいます。

このように個別的自衛権と集団的自衛権とは、

  • 攻撃を受けたのが自国(日本)であるのか
  • 他国(日本以外の国)であるのか

という点で、異なります。

政府は、個別的自衛権については、独立国の固有の権利であるとして、日本にも認められると解釈しています。

そして、自衛隊は、このような個別的自衛権に基づき、個別的自衛権を行使するための必要最小限度の実力と認められる限り、憲法の下においても保持することが許されると解釈してきました。

(2)集団的自衛権と新3要件

政府は、2014年7月、日本における集団的自衛権の行使の要件として、

  1. 日本に対する武力攻撃又は日本と密接な関係にある国に対して武力攻撃がなされ、かつ、
  2. それによって日本国民に明白な危険があり、集団的自衛権行使以外に方法がない場合には、
  3. 必要最小限度の実力行使が許容される

という、いわゆる「新3要件」を閣議決定しました。

これが「新」といわれるのは、それまでの政府見解によると、他国が武力攻撃を受けた場合に、日本が武力を行使すること(集団的自衛権)は認められないと解釈してきたからです。

そのため、2014年7月の閣議決定は、それまでの憲法9条に関する政府解釈を変更したものとして、「解釈改憲」とよばれました。

参考:内閣官房

関連記事: