「日本語というのは、ディスレクシアの症状が非常にあらわれにくいため、気づかないまま、大人になってしまうケースも多いんです。私自身も大人になってから気づきましたから」
気づきにくい理由は、日本語の特性にあるという。
「日本語の仮名は、“あ”は“あ”としか読まないですね。ディスレクシアの人が読み書きを困難にする一番の原因“音と文字の関連性”が、多くても濁音、半濁音になるなど、ふたつなんです。しかし、英語の場合、aという文字があって、それは単語のどこにくっつくかで、いろんな音に変わっていくんですね。そうすると、より混乱が起こりやすいわけです」
そのため、イギリスやアメリカでは、ディスレクシアに対する対応が、とても進んでいるという。
「アメリカやイギリスなどでは、学校に入った時点でスクリーニング(簡便な検査)をかけ、学年が上がるごとにきちんと調べてくれるんです。8歳くらいで、ディスレクシアであることはわかります。私の息子もイギリスに留学したときにディスレクシアが判明したのですが、判明した時点ですぐに能力をのばすための支援をしてくれるんです。決してマイナスに捉えるのではなく、“困難な原因がわかってよかったね! じゃあ、こうしよう、ああしよう”と、彼の得意な理解度のところを使って学習できる方法をどんどん提案してくれたので、自信を取り戻すことができたんです」
日本でも検査によって、早期にディスレクシアのリスクがあるかどうかは、わかるそう。ただまだ標準化されていないそう。
「小学校に入って1学期終わったくらいにスクリーニングをかけると、この子はディスレクシアのリスクがあるかもしれないと、早期に対応することは可能です。しかし、実際問題、日本では小学校4年生くらいにならないとはっきりはわからないんです。4年生くらいになると、覚える漢字も多く、複雑になり、読み方も多くなってきます。そうすると、ディスレクシアとわかりやすくなっていくんです」
しかし、ディスレクシアと判明しても、日本ではまだまだ課題が多いそう。
「気づいたとしても、適切な対応をしてもらえればいいですが、ディスレクシアというレッテルをはられて放っておかれたらどうしようもないんです。
また、日本ではまだ多くがガリガリと練習して克服させようとしてしまうので、勉強が嫌になってしまう子も出てきてしまうんですね。もっとそのへんの理解と合理的配慮が日本でも進むように、私たちも支援活動していきたいと思っています」
読み書きが困難…となると、ついそこにばかり目がいってしまい、悩んでしまう。それが大きな誤解だと藤堂さんは話します。
「文字はひとつの記録媒体にすぎないんです。読み書きが苦手でも、考えていることが素晴らしければいいし、理解力があればいい。つまり、それを理解し表現するための手段を配慮してやることが大事。書くことはパソコンで補えますし、誰かに書いてもらってもいい。読むことは、読みやすくすることや音声化してもらえばわかる…。そうやって、それぞれの二-ズに合った対応をしてあげれば、ディスレクシアの子どもたちの才能を、いくらでも活かし、伸ばすことができるのです」
読み書きが困難なことで、せっかくの発想や才能が埋もれてしまわぬよう、ディスレクシアの人への理解と支援が高まることを願うばかりだ。
(構成・文/横田裕美子)