3、執行猶予期間を過ぎると前科は消える?
前章で解説したように、前科には多くのデメリットがあることがわかりました。
では、執行猶予期間を過ぎれば前科は消えるのでしょうか。
(1)刑の効力は消える
執行猶予期間が経過すると、「刑の言渡しの効力」はなくなります(刑法27条)。
刑の言渡しの効力が消滅すると、
- 言い渡された刑に服さなくてよい
- 就職における資格制限がなくなる
- 履歴書の賞罰欄への記載が不要になる
といった効果があります。
就職に際しての制限が解除されるため、仕事の選択肢は広がるでしょう。
(2)再び犯罪をすると刑が重くなるおそれ
しかし、「過去に犯罪をした事実」そのものがなくなるわけではありません。
前科があることを他人に知られてしまい、偏見を持たれてしまうおそれはあります。
また、再び犯罪をした場合には、前科があるという事実が証拠として提出され、刑が重くなる可能性があります。特に、痴漢や窃盗、覚せい剤のように、常習性が高い犯罪では注意が必要です。
執行猶予期間が無事に過ぎても、一定の不利益を受ける可能性があることは覚悟しておかなければなりません。
4、前科があっても執行猶予になる4つのパターン
これまでは「執行猶予で前科がついた後にはどうなるのか」を中心に見てきました。
次に、見方を変えて「前科がある状態で犯罪をすると執行猶予はつくのか」を解説します。
前科があっても執行猶予になるのは、次の4つのパターンです。
(1)前科が罰金・拘留・科料である
前科が罰金・拘留・科料という軽い罪であれば、執行猶予がつく可能性があります。
これらは、「禁錮以上」という重い前科には該当しないためです。
例えば、罰金刑に処されてから時間が経たないうちに再度犯罪をして懲役刑が言い渡されるとしても、執行猶予になる可能性はあります。
もちろん、新たに言い渡される罪が「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」であることが前提条件です。
(2)執行猶予期間が経過した
前科が執行猶予付きの懲役刑であった場合、猶予期間が満了した後であれば、犯罪をしても再び執行猶予になる可能性があります。
執行猶予期間が経過すると、「刑の言渡しの効力」がなくなるためです。
ただし、前科と同種の罪を犯せば、裁判所の判断が厳しくなるため、実刑になる可能性は高まってしまいます。
(3)出所から5年が経過した
前科が実刑判決であっても、出所から5年が経過していれば執行猶予をつけられます。
「執行を終わった日……から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」(刑法25条1項2号)という条件にあてはまるためです。
もっとも、過去に実刑判決を受けた事実は消えないため、裁判で判断材料とされてしまうことに変わりはありません。
(4)再度の執行猶予が認められた
執行猶予期間中に犯罪をしても、「再度の執行猶予」が認められる可能性はあります。
再度の執行猶予が認められる条件は次のとおりです(刑法25条2項)。
- 新たに言い渡される罪が「1年以下の懲役または禁錮」である
- 情状に特に酌量すべきものがある
- 保護観察期間中でない
これらすべての条件を満たせば、執行猶予期間中の罪についても実刑判決を免れられます。しかし、再度の執行猶予が認められるケースは稀です。執行猶予期間中は犯罪を決してしないように、特に行動に注意しなければなりません。
配信: LEGAL MALL