5、会社・事業主は何をすべきか
改正健康増進法を受けて、会社・事業主は、何をすべきでしょうか。
(1)喫煙のリスクを把握し、経営判断をしっかり行う
喫煙のリスクは、受動喫煙だけではありません。
喫煙室を設けるのか、思い切って全面禁煙に踏み切るのか、経営者としては、しっかり考える必要があります。
①喫煙室という「3密空間」による新型コロナウイルス感染症リスク
これは、急浮上してきた問題です。職場の中でも、皆様は3密の防止に躍起になっておられるでしょう。
顧客サービスとして喫煙室を設けることは、本当に必須のことでしょうか。
むしろ、顧客にリスクをもたらしているのです。
②喫煙そのものが失火のリスクをもたらす
喫煙は、常に失火原因の上位を占めています。とりわけ雑居ビルなどで、小規模店舗での失火が、甚大な被害をもたらすことも少なくありません。
受動喫煙対策が重視される中で、火災防止対策という視点も見過ごしてはなりません。
③喫煙客を守ることで非喫煙客を呼び込めなくなっている
現在の大事なお客様が喫煙者だということで、喫煙室を設けて顧客をつなぎとめるのは、本当に適切でしょうか。
家族連れなど、より大きな顧客層を取り逃してる可能性があります。
④全面禁煙が顧客層開拓に役立った事例もある
マクドナルドが、2014年8月に都心店も含めて全席禁煙に踏み切った時には、重要なビジネスパーソン顧客を遠ざけてしまうという声がありました。
同年7月の品質期限切れ鶏肉問題も含めて、深刻な影響が懸念されました。しかし、実際には、家族連れなどの増加で、業績の回復を果たしています。
串カツ田中も同様です。2018年6月に全面禁煙に踏み切ったところ、それまでのビジネスパーソン中心であった顧客層から家族連れ顧客へのシフトが進み、業績の向上が見られます。
このほか、厚生労働省の受動喫煙対策事例でも、様々な事例が紹介されています。
飲食店で全面禁煙して客足増加につながった事例、バーで屋内全面禁煙にしたところ女性客が増加した事例などです。これらも、ぜひ参考にしてください。
⑤受動喫煙対策が従業員の健康に繋がる
健康経営の立場では、受動喫煙防止を極めて重視しています。
健康経営優良法人認定制度では、大企業部門、中小企業部門とも、受動喫煙対策は必須の認定要件です。
喫煙者本人の健康被害も考えれば、経営者として、たばこ対策は必須の事項といえます。
(2)会社としての取組みポイント
全般については、厚労省のガイドラインがあります。対策の進め方など含めて詳細に記載されています。《職場における受動喫煙防止のためのガイドライン》
ここでは、ごく簡単にポイントだけ触れておきます。
①改正健康増進法への対応を徹底すること
改正健康増進法が求める対応は、具体的・明確なものです。
規制を無視していたら、顧客なり近隣住民などから、すぐ保険所に通報されるなどでばれてしまうと考えておくべきでしょう。
しかも、広範囲な罰則などの制裁が定められています。
会社として、違反行為は信用失墜に繋がります。
②従業員への安全配慮義務を尽くすこと
受動喫煙対策が不十分であったときには、従業員への安全配慮義務違反が問われます。健康被害が生じたときには、労働契約法上の債務不履行あるいは不法行為として損害賠償請求を求められる可能性もあります。
(参考)
労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
③求人の際の受動喫煙対策明示義務(職業安定法施行規則)
従業員の募集の際には、どのような受動喫煙対策を講じているか、募集や求人申込みの際に明示する義務が課されています。
逆に言えば、しっかりした受動喫煙対策を取っていることが、リクルートの上でも役に立つことになります。
(参考)職業安定法施行規則第4条の2第3項9号)
厚生労働省資料「従業員に対する受動喫煙対策について」で国会質疑なども記されています。
6、迷ったときには弁護士との相談を
改正健康増進法は、罰則つきの強行法規です。会社・事業主として、顧客・従業員いずれに対しても、受動喫煙防止対策は徹底しなければなりません。
とはいえ、厚労省や東京都をはじめとする地方自治体の解説資料は、簡単に読んで理解できるものではありません。
ぜひ、専門の弁護士のアドバイスをしっかり受けて、間違いのない対応をしてください。
配信: LEGAL MALL