寿木けい×富士華名 大人の茶会。

お茶は淹れるたびに味が変わる。


一煎淹れるごとに茶葉をひっくり返し空気に触れさせ、葉っぱを開かせる。「こうすれば10煎くらいは全然いけちゃうんです」

富士:次は、岐阜の和紅茶。去年摘んで炭火で焙煎したものを、熟成させました。台湾風に蓋碗(がいわん)で淹れますね。
寿木:富士さんのお茶の淹れ方は美しくて、惚れ惚れします。
富士:中国や台湾ってダイナミックにお茶を淹れるけど、日本人の場合、しとやかなほうが美しい。例えば、日本舞踊って派手に動かず、指先や目線で表現する。私も踊りをやるので、そういう仕草はいいなって。
寿木:どんな踊りをやってるの?
富士:フラダンス。もう10年やってる。だから、顔の角度、目の伏せ方、姿勢、フラの動きを結構意識してるんです、実は。茶杯もこうして受け皿ごと手渡しするのが好き。指先がちょっと触れ合ってつながる感じがいいなって。和紅茶、どうぞ。
寿木:わ、すごくおいしい!
富士:スープみたいじゃない?
寿木:旨味がある。でも匂いは紅茶。富士さんはカクテルも得意だけど、これを使ってカクテルを作るなら?
富士:焼酎で割るのがいいかな。
寿木:いい! 絶対おいしい!

鉄瓶は毎日、機嫌が違うんです。


富士さん愛用の南部鉄瓶。湯はこれで沸かす。その日の天気、気温、湿度、さまざまな条件で鉄の「機嫌」は変わるそう。「心を読むのが難しい」と富士さん。

富士:じゃあ次は、キラキラしたアイドル茶、鳳凰単叢(ほうおうたんそう)。なぜキラキラかというと、樹齢10年の若い茶木の葉っぱだから、エネルギッシュな味なんです。(茶葉にお湯を注ぎつつ)うん、いい。飲まなくてもわかる。お湯もいい。鉄瓶の機嫌もいい。
寿木:鉄瓶がご機嫌(笑)。
富士:鉄って気分屋で、結構わがまま。なかなか心が通じないんです。
寿木:確かに、ほかの道具とは違って人に合わせてくれなさそう。
富士:以前、お茶のレッスンにお坊さんがやってきて。シャンシャン音が鳴る錫杖(しゃくじょう)を持ってて、お茶を淹れたら、それを突然鳴らしたんです。「え、この部屋なんか居ます?」って聞いたら、「いえ、茶を飲むときに鳴らすんです」と。いい音色だなと思ったら、鉄瓶がうっとりしてたの! 鉄同士で共感して。うちに来て半年、なかなか心が通じなかったのに。見た目もセクシーになって、味もまろやかにおいしくなって。
寿木:富士さんは直感がするどい?
富士:お化けは見ないけど、宇宙人はある(笑)。宇宙人って駅に結構いて。よく見たの、20代の頃に。
寿木:それはどこの駅?
富士:新宿駅。駅でしか見なかった。人のフリをした宇宙人で足が3本あって。隠せてない! って(笑)。どうですか? アイドルの味は。
寿木:とってもいい匂いがするし、味が若くてフレッシュ。やっぱり樹齢は味に関係するんですか?
富士:します。樹齢が高いほうがコクが深くなる。根が深く張るので、若木が届かない養分を摂れるんです。
寿木:でも、育っていくことで、失ってしまうものもありますよね。
富士:私もキラキラしてたから宇宙人を見たのかしら(笑)。

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