非認知能力って何?幼児教育の重要性をアグネス・チャンに聞いた

第1回 教育界の注目ワード「非認知能力」はどう養う?
今の親世代が子どもの頃は、教育の指標といえばテストや試験で測定されるIQ(学力)・偏差値がほぼすべてだった。だが、近年では欧米を中心に、幼児教育の現場では数値化されにくい「非認知能力」というスキルに注目が集まっているという。

非認知能力とはいったいどんなものなのか? 子どもの将来にどう関わってくるのか? 早くからこのスキルの重要性に気づき、3人の息子の子育てにも実践してきたアグネス・チャンさんに話を聞いた。

「いろんなことに興味を持つ好奇心や目標を決めて粘り強く努力する意欲、他者と力をあわせる協調性、誠実さ。そういった数値化はされないけれども、実生活に大きく関わってくる性格や特徴のことを、教育界では非認知能力と呼んでいます」(アグネスさん 以下同)

アグネスさんはトロント大学で社会児童心理学を学んだ後、1985年に結婚。翌年に出産した長男を伴い、89年にはスタンフォード大学に留学を決行。次男の出産を挟んで94年に教育学博士号を取得、96年に三男出産と、まさに座学と実践の両面から「教育」について深く学んできた。

「私が子育てを始めた80・90年代の日本は偏差値教育の真っ只中。でも私たち夫婦は偏差値というものさしではなく、世の中がどれだけ変化してもそれを楽しめる、世界に通用する子に育てようと決めました。だから勉強さえしていればいい、という考え方は当時から違和感がありました」

実験する子どもたち

●非認知能力を高めるための教育の投資は3歳までがリターン大

そこでアグネスさん夫婦が重点を置いたのが、乳幼児期の教育だ。

「多くの教育学者が『乳幼児期への教育の投資は一番実りが大きい』と口をそろえています。といっても、私たちが行ったのは知識を詰め込む早期教育ではなく、ごく普通のこと。一緒にいろんな場所に行き、見せ、聞かせ、触らせる。それらの体験を通じて、好奇心は育まれていくのです」

幼児期に五感を刺激すると、脳細胞につながるシナプスが活発に増える。好奇心旺盛で何事にもポジティブ、物怖じしない子に育てるためには、幼児期の豊富な経験が欠かせないのだという。

勉強する女の子

●非認知能力の土台になるのは自己肯定感

そしてもうひとつの大きな土台がセルフエスティーム(自己肯定感)だ。

「わが子に自己肯定感を持たせるためにまず大切なのは、人と比べないこと。『ありのままの君が大好きだよ』と普段から言葉でしっかり伝えてあげましょう。そうすれば子どもは自然に、自分自身を価値ある存在だと思えるようになります」

自己肯定感が身につくと、子どもは自分に自信がつく。すると長所や才能をどんどん伸ばせるようになる。さらに、失敗を恐れずにチャレンジできるようにもなる。心に余裕が生まれ、人間関係をうまく築けるようにもなる。つまり、自己肯定感は学力を伸ばすために欠かせない要素なのだ。

「学力を伸ばすことだけが子どもの教育ではありません。子育ては、心身両面にわたる総合的な人間形成のプロセスです。幼児期に非認知能力を伸ばす重要性に気づくと、その後の子育てがグッと楽になりますよ」
(阿部花恵+ノオト)

お話をお聞きした人

アグネス・チャン
アグネス・チャン
1955年香港生まれ。72年、「ひなげしの花」で日本歌手デビュー。94年、スタンフォード大学教育学博士号を取得。歌手、エッセイスト、教育学博士として幅広く活躍中。
1955年香港生まれ。72年、「ひなげしの花」で日本歌手デビュー。94年、スタンフォード大学教育学博士号を取得。歌手、エッセイスト、教育学博士として幅広く活躍中。