●実母と縁を切ることは難しい
横山さんによると、母娘の縁を絶つのは「なかなか困難なこと」とのこと。
「これまでカウンセリングをした方の実母さんのなかには、娘さんから突然『もう二度と会いません』という手紙が来た方がいらっしゃいました。ただ、法律的にも血縁を切ることはできませんし、1対1の関係ならまだしも、家族がいる場合、誰かが亡くなったらお葬式はどうするのか、兄弟・姉妹との関係はどうするのかなど、様々なしがらみがあります。“縁を切る”というのは、想像以上に大変なことなんです」(横山さん、以下同)
どれだけ決別したいと思ったとしても、一旦は冷静に踏みとどまるべきだと横山さんはアドバイスします。
「人間は変わらなくても、関係性というのは時間とともに変わることもあります。なので、一生ではなく一時的に決別状態を取ると考えればいいんです。『いま自分の感情がこうなので、とりあえずこの1週間は連絡を取らない』とか、『半年とか1年連絡をとらない』 と決める。とはいえ、必ず兄弟や家族など誰かお母さんとのパイプ役を作っておくことが大事だと思います」
●母を否定することが自分を否定することに
また、自分のルーツでもある母親との縁を切ることは、娘自身の心を不安定にしてしまうリスクもあるようです。
「母親は自分を創り出した源でもあります。実母としっかりとした信頼関係でつながるというのは、人間が誰しも安心感を持てることであり、自己肯定感を育む根本になるわけです。その関係を切ってしまうと、心のどこかに不安感が残ってしまいます。自分のルーツは、いわば生きていくベース。母親という存在を切ることで煩わしさからは解消されるかもしれませんが、自分が戻れる巣をなくしてしまうということで精神的に大きなリスクになるでしょう」
関係を断ち切るのが得策ではないとすると、どのように実母と向き合うべきなのでしょうか?
「カウンセリングの最初にアンケートを書いていただいているのですが、娘さんがチェックを入れる項目で圧倒的に多いのは、『自分に自信がない』『自分が嫌い』というものです。これは母親に愛されたという実感がないのが原因のひとつですね。『私なんてどうでもいい存在なんだ』と思い込んでしまっているんです。克服するには、縁を切るのではなく、母親とぶつかってでもいいから対峙するという姿勢が大事なのです」
付き合うだけで疲弊してしまう関係はできることなら断ち切りたいもの。しかし、自分の人生を創り出した母親との関係は特別です。最悪の場合は、決別の道もあるかもしれませんが、まずはしっかりと向き合うことが必要なようです。
(構成・文:末吉陽子/やじろべえ)