子がトランスジェンダーかも、どうする?

第1回 もしも我が子がトランスジェンダーだったら
LGBT(性的少数者)への差別や偏見をなくしていこうという動きが教育現場でも加速しています。来年度からは、高校の教科書に性の多様性についての記述を増やしていくことが決定。しかし、ママたちにとっては、もし我が子が当事者だったらどうするべきなのか、漠然とした不安が頭をよぎるものです。

なかでも、「身体の性」と「心の性」にズレを感じる、いわゆるトランスジェンダー(医学的には性同一性障害と呼ばれることもある)は、子どもの頃から精神的に苦痛が生じるとも言われています。

そこで、もし我が子がトランスジェンダーかも、と思ったときに知っておきたいコトについて、自身も当事者としてLGBTの若者を支援している、遠藤まめたさんに聞きました。

●幼少期は、特に性別はゆれ動くもの

そもそも性別とは社会的に決められたマークのようなものであり、本質的にはグラデーションのようなものだと言われています。とくに幼少期の子どもの場合は、自分がどの性に属していると思うか、いわゆる「性自認」がはっきりせず、あるいは流動的であることも多いと遠藤さんは言います。

「特に12歳くらいまでの子どもの場合は、トランスジェンダーを思わせる言動があっても、それが生涯にわたって持続するのか、そうでないのかは予測不能と言われています。性別を変えたいと言っている子が、将来ずっとトランスジェンダーとして生きていくのかは誰にも分からない、というのが専門的知見です。とはいえ、流動的だから軽視してよいというわけでもありません。非典型的なジェンダーの子どもたちに『男の子だから』とか『女の子だから』といって、その子が遊びたくないこと、望まない髪型や服装を強制させるのは、子どもにとっては心の傷となります。『この子がこの先、どのような性別で生きていくのだろうか』という問いはさておき、ひとまずいま目の前で子どもが望んでいるあり方を受け入れて、いやがることは強制しない、という親の姿勢が、子どもの安心に一番繋がります」(遠藤さん、以下同)

男の子なのにスカートを履きたがる、女の子なのに虫取りばかりしているなどなど、我が子が一般的な性別の“常識”に当てはまらない行動を取っていると、親としては気になるもの。しかし、深く考えないことが大事なようです。

「最近、海外で面白いニュースがありました。2歳の息子にキッチンセットを手作りしてあげたお父さんが、その様子をSNS に載せたところ、『息子をオカマにする気か』と批判が寄せられたそうです。確かにキッチンセットはどちらかと言うと女の子っぽいかもしれません。しかし、バッシングを受けたお父さんは、『くそくらえ!息子がいつも、料理をしているところをのぞいたり、お手伝いすることが大好きだから作ったんだ。子どもが求めるなら、自分はなんだってする。息子がバービー人形を欲しいというなら、それを買う。だって、息子がそれを欲しいと言っているんだから』と反論。それが大変な話題になりました。まずは子どもが楽しんでいることを尊重する姿勢というのが、何よりも大切なのです」

子がトランスジェンダーかも、どうする?

●理解しあえる仲間がいそうな場所に連れて行く

とはいえ、家庭内でその子の好みの服装や遊び、振る舞い方を尊重したとしても、周囲の子や親、教員たちの目が非典型的な性別の振る舞いをする子どもを必ずしも好意的に受け入れてくれるとは限りません。その場合、親はどのように行動すればいいのでしょうか。

「ある幼稚園で、ヒラヒラの布をドレスのように巻いて踊るのが大好きな男の子が、お遊戯会で女の子と一緒に踊ったら、他の保護者たちから、『どうしてそんなことをさせているんだ』とクレームがあったそうです。その時に、保育士さんがとっさに『この子は、本当にこうやって踊るのが上手で、楽しそうで、とてもかわいいですよね?』と言ったところ、周りの保護者も『たしかに言われてみれば、かわいい……』と納得してくれたとか(笑)。あえて、性別の話を持ち込まなかったところも先生の機点が効いていたと思います」

この先生が示唆しているように、性別に縛られるのではなく、「子どもが幸福であることが大事」ということを大人たちが共有することが大事だと遠藤さん。

「他にもたとえば女の子なのに一人称が『おれ』『ぼく』だったり、男の子なのにお姫様の絵を描くのが好きだったりするとき、それを『おかしい、治さなきゃ』と思うのではなく、それもこの子にとっては大切なものかもしれないという価値観を周りの大人たちが共有できることが大切だと思います」

それでも、もし孤立してしまうようなことがあれば、トランスジェンダーの子の交流会に参加し、同じ指向を持つ子どもたちと触れ合うことで、我が子の自尊心を育むことにつながるそう。

「トランスジェンダーの子どもをサポートするためのカウンセリングを実施している専門家もいます。関西ではトランスジェンダー生徒交流会という集まりがあり、小学生で非典型的な性別の子たちなどが、だれの目をおそれるでもなく、自分たちがしたい服装や髪型、遊びをして、そこにいられる場が保障されています。その子の好きなことを心置きなくできる場所、仲間を見つける手助けをしてあげることも大事かもしれません。トランスジェンダーの子どもたちは、周りの友達や大人との関係の中でこそ、悩みごとを抱えます。だったら、信頼できるつながりや場を得ることが、なにより強力なサポートになるはずです」

我が子がトランスジェンダーだったらどうするべきか…。その答えは、「親としてはむやみに不安を感じずに、まずは子どもが伸び伸びと楽しく過ごせる環境を整えてあげること」なのかもしれません。

(構成・文:末吉陽子/やじろべえ)

お話をお聞きした人

遠藤まめた
遠藤まめた
1987年生まれ横浜育ち。トランスジェンダー当としての自らの体験をきっかけに10代後半よりLGBTの若者支援をテーマに活動。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版、2016年)ほか。
1987年生まれ横浜育ち。トランスジェンダー当としての自らの体験をきっかけに10代後半よりLGBTの若者支援をテーマに活動。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版、2016年)ほか。