過剰防衛とは?正当防衛との違いや成立要件、判例を弁護士が解説

過剰防衛とは?正当防衛との違いや成立要件、判例を弁護士が解説

3、過剰防衛とは異なるその他の防衛行為

過剰防衛とは異なりますが、防衛行為を行った場合、「誤想防衛」、「誤想過剰防衛」が認められることもあります。

以下では、誤想防衛、誤想過剰防衛の成立要件などを説明します。

(1)誤想防衛

誤想防衛とは、正当防衛の成立要件に該当する事実がないのに、その事実が存在すると誤信して行われる反撃行為をいいます。

相手が自分を驚かせようと思っておもちゃのナイフを取り出したのを、「切りつけられる」と誤解して相手を殴り傷害を負わせてしまったという場合が誤想防衛の典型例です。このケースでは、急迫不正の侵害が存在しないため、正当防衛は成立しません。

誤想防衛の事案については、急迫不正の侵害を誤認しているため、事実の錯誤があったとして、犯罪の故意が阻却され故意犯の成立が否定される可能性があります(刑法38条1項)。

その場合、上記のケースでは、傷害罪は成立しませんが、事実の錯誤につき過失があれば過失致傷罪が成立します。

(2)誤想過剰防衛

誤想過剰防衛とは、急迫不正の侵害がないのにそれがあると誤信して防衛行為を行ったものの、誤信した侵害に対する防衛として過剰な行為であった場合をいいます。

たとえば、男性が泥酔している女性をなだめていたところ、それを男性が女性に暴行を加えようとしていると誤解して、近くにあった鉄パイプで男性を殴ったという事案では、急迫不正の侵害はなく、防衛行為としても相当性を欠いていますので、正当防衛は成立しません。

誤想過剰防衛も誤想防衛の一種とされますので、故意犯の成立は否定され、過失がある場合にのみ過失犯が成立します。

上記のケースでは、傷害罪は成立しませんが、事実の錯誤につき過失がある場合には過失致傷罪が成立します。

ただし、通常の誤想防衛の場合と異なり、行為者に過剰事実の認識がある場合には、違法性を基礎づける事実の認識はあったとして故意犯が認められるという考え方もあります

4、【判例】過剰防衛が問題となった実際の事例

以下では、過剰防衛の成否が問題になった実際の事例について紹介します。

(1)防衛行為が相当であるとして正当防衛が認められたもの(最判平成元年11月13日)

【事案の概要】

年も若く体力も優れたBがダンプカーを空き地に入れようとしたところ、老齢のAの車が邪魔になったため、警笛を鳴らしたものの状況が改善されないため、怒ったBはAに対して「邪魔になるから、どかんか」と怒鳴りました。AはBの言動に腹を立てて「言葉遣いに気を付けろ」と言ったところ、Bは「お前、殴られたいのか」と言い、手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作をしながら近づいてきました。Aは、Bの言動に恐怖を感じ、逃げ出そうとしたものの、Bが後ろから追いかけてきたため、車内にあった菜切り包丁を構えて「殴れるのなら殴ってみい」、「切られたいんか」などと脅しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、Aは年齢も若く体力にも優れたBから迫られて、危害を免れるためにやむを得ず菜切り包丁を構えて脅したといえることから防衛行為としての相当性を超えたものとはいえず、正当防衛の成立を認めました。

武器対等の原則からすると、素手に対して包丁を構えて脅した状況だけ見れば、防衛行為の相当性を欠くように思えますが、防衛行為の相当性の判断は、武器対等の原則だけではなく、年齢、体格、性別、武器の有無・種類などを踏まえて判断します。

上記判例は、そのような観点から検討した結果、防衛行為の相当性を認めた事案といえるでしょう。

(2)過剰防衛が認められたもの(最判昭和24年4月5日)

【事案の概要】

Aは老父Bと屋外で口論になり、Bから胸倉をつかまれるなどされたため、自宅に逃げ帰りました。しかし、BはAの後を追って自宅に入ってきて、棒様のものを手にして打ちかかってきました。逃げ場を失ったAは、その場にあった斧を「斧ではない棒様のもの」と思い、その峯および刃でBの頭部を複数回殴りつけ死亡させました。

【裁判所の判断】

裁判所は、当時74歳のBが棒様のものを持って打ちかかってきたのに対して、斧と気付かず斧程度の重量のある棒様のもので複数回殴打した行為については、過剰防衛が成立すると判断しました。

Aは、手に持った棒様のものを斧と気付かずに殴打をしたとしていますが、木の棒とは比べ物にならないほどの重量であることは当然認識していたはずであるという理由から、傷害致死罪の成立を認めています。

(3)第1暴行に正当防衛を認め、第2暴行に正当防衛も過剰防衛も認めなかったもの(最決平成20年6月25日)

【事案の概要】

Aは、Bから殴りかかられ、アルミ製灰皿を投げつけられるなどの暴行を受け、Bの顔面を殴打するなどの反撃を行いました(第1暴行)。Aの反撃によって転倒したBは、地面に頭を打ち付けて意識を失ったように動かなくなりました。Aは、その状況を認識しながら、「俺を甘く見ているな。俺に勝てるつもりでいるのか」などと言いながら、Bを足で踏みつけるなどの暴行を加えました(第2暴行)。その結果、Bは、頭部打撲によるくも膜下出血によって死亡しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、第1暴行については正当防衛の成立を認めたものの、第1暴行と第2暴行との間には侵害の継続性や防衛の意思の有無という点で断絶があるため、一連の行為とはいえず、第2暴行については、正当防衛も過剰防衛も否定しました。

複数の反撃行為が、時間的・場所的に近接している場合については、一連の行為と評価されて正当防衛または過剰防衛が成立することもありますが、上記の事案のように、侵害の継続性や防衛の意思の有無という観点から明らかに性質を異にするようなケースでは、別々の行為と評価したうえで、正当防衛または過剰防衛の成否を判断することになります。

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