青森生まれの珠玉のさくらんぼ、ジュノハート~注目の新品種はこうして誕生した。No.004

青森生まれの珠玉のさくらんぼ、ジュノハート~注目の新品種はこうして誕生した。No.004

「10年に一度の逸材」と呼ばれ、瞬く間に市場を席巻した人気のぶどう、シャインマスカットのように、末永く愛されるヒット品種を―。さくらんぼの「ジュノハート」は、青森県が24年の歳月をかけて開発した期待の品種。高級さくらんぼとして長らく君臨してきた佐藤錦を脅かす存在として、近年、注目を集めています。収穫を目前に控えた2人の生産者に会いに、フルーツ栽培が盛んな青森県南東部の三戸町と南部町を訪ねました。

さくらんぼの従来イメージ超える
青森発の樹上の「宝石」

青森県が総力を挙げて開発した、大粒のさくらんぼ「ジュノハート」

「長年さくらんぼを作ってきたけれど、『ジュノハート』に限っては、これが最高、これ以上のものはないと思っても、作れば作るほど次の高みが見えてくるんだ」。青森県三戸町(さんのへまち)の果樹生産者、山田仁志(やまだひとし)さんの言葉に熱がこもります。

「ジュノハート」は、青森県が1997年から育種に取り組み、開発した大粒のさくらんぼ。2020年に全国デビューを飾りました。


青森県三戸町で8代続くさくらんぼ農家の山田仁志さん。早くからジュノハートの栽培に取り組み、特に高品質で、4Lサイズ以上の大粒を出荷する優れた生産者のひとり。ジュノハートのことを「この子」と呼んで慈しみ、文字通り樹木と対話しながら作業する姿が印象的

甘くて味のよい紅秀峰(べにしゅうほう)と果実が大きくて種離れのよいサミットを交配。

艶めくルビー色の端正なハート型の果実は、500円硬貨よりも大きく、噛んだときにパツンっと弾ける果皮と肉厚でジューシーな果肉の弾力に驚きます。糖度が約20 度と抜群に高いものの、ほどよい酸味もあり、その甘みはどこまでも上品。従来のさくらんぼにないような高貴な香りを感じとる生産者もいるそうです。

ジュノハートのなかでも特に高い品質と大きさの基準に合格したものだけが名乗ることができる、最高級ブランド「青森ハートビート」には昨年、県内の初競りで1粒4万円の高値がつきました。

南部町の留長(とめちょう)果樹園の7代目、留目秀樹さん。青森県内で唯一、温室栽培でさくらんぼを生産する留目さんは、探求心が旺盛。「ジュノハートにとって最適な温室ハウスの室温管理のコツがようやくわかってきたんです」と楽しげに話す。露地栽培も手がけている

この高い評価を支えるのが、山田さんをはじめとする青森の生産者たちです。南部町(なんぶちょう)の留目秀樹(とどめひでき)さんもそのひとり。

「出荷できるジュノハートは、ピラミッドに例えたら頂点のほんの先端だけ」と話す留目さんは、大切な1粒に十分な養分を行きわたらせるために、不要な芽や蕾(つぼみ)、幼い実の間引きはもちろん、果実の成長や色づきを左右する「葉摘(はつ)み」の作業も丹念に行います。

さらに、消費者のもとにベストの熟度で届くよう一粒一粒、見極めて収穫。宝石を並べるかのように美しい箱詰めにも心を配ります。

上/ジュノハート(右)と佐藤錦(左)を並べると、大きさの差は歴然。ジュノハートは、3Lサイズで横径2.8cm以上、4Lサイズ以上だと3.1cmよりも大きくなる 下/ジュノハートの原木は、試験栽培中の2005年に起きた山火事を奇跡的に免れた逸話をもつ。この原木から苗木を増やして本格栽培が始まった、まさに幸運の果実

冒頭の山田さんも、たとえば果皮に発生したごく微小な傷も原因を探って次の年は作業のやり方やタイミングを変えてみる…、と試行錯誤を惜しみません。

熱意あふれる生産者の努力の結晶ともいえるジュノハート。今、まさに旬を迎えています。

PICK UP! >> ジュノハート

鮮やかなルビー色と愛らしいハート型の見映えから、贈答品としても人気が高い。その名前は、家庭の幸福を司るローマ神話の女神「ジュノ」と、ハート型の果実の形に由来する

青森県が24年の歳月をかけて開発した、国内品種のなかで最大級の大粒のさくらんぼ。甘くて食味のよい紅秀峰と、果実が大きくて果肉から種がはがれやすいサミットをかけ合わせて生まれた。つやつやとしたルビー色の果皮はパリッと弾力があり、クリーム色の果肉は肉厚でジューシー。糖度は約20度と非常に高く、酸度は約0.5度ほどで、バランスのよい味わい。栽培は青森県内に限定されており、毎年5月中旬にごく少量の温室ハウス栽培のものが、6月下旬から7月上旬にかけて露地栽培のものが出荷される。

品種/ジュノハート
育成地/青森県
品種登録/2013年
交配/紅秀峰 × サミット

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