忘れられた信州伝統の丸なす
復活に挑む孤高の戦い
千曲川沿いの地域でかつてはよく食べられていた伝統野菜の丸なす「小森茄子」
「『小森茄子(こもりなす)』の天ぷらのうまさったら、ないんだから」と目を細めつつ畑を案内してくれたのは、『信州東福寺小森なす本舗』代表の滝澤知寛(たきざわともひろ)さん。長野市篠ノ井(しののい)の東福寺、小森地区が原産の丸なす、小森茄子の復興に長年取り組んでいます。
一帯は千曲川沿いに広がる盆地で、かつては肥沃な河川敷の砂を使ったなす苗作りが盛んでした。小森茄子は明治時代に栽培が始まり、地元では「おやき」の具の定番として親しまれてきましたが、昭和30~40年代に栽培のピークを迎えたあとは改良品種のなすに追いやられるようにして生産者が減少。一軒のなす苗農家を残すのみ、という状況が続いていました。
小森茄子の復興に長年尽力している滝澤知寛さん。今年75歳
2011年、区長として地域再生のために地元の「食の文化財」を探していた滝澤さんは小森茄子に注目。自家採種で種をつないできたなす苗農家の協力のもと、その復興に取り組みはじめます。
東京にあるアンテナショップ『銀座NAGANO』の実演販売に家族総出で出向いたことも。市内のおやき店『ふきっ子おやき』店主の力も借りながら、地道に小森茄子の価値を広めてきました。
2015年には「信州の伝統野菜」にも選定。それでも栽培農家はなかなか増えません。
上/小森茄子の花 下/『信州東福寺小森なす本舗』の小森茄子の圃場。周辺には桃の果樹園が広がり、近くを千曲川が流れる風光明媚な盆地にある
「もうやめようか」と思いつめた2022年、県や市、地元農業高校の支援で、栽培農家を増やすためのプロジェクトが発足。孤独な戦いに一筋の光明が差しました。
「口先だけの区長にはなりたくなかったんです」。原動力は、地域を未来につなぎたいと願う、地元への愛。そう話す滝澤さんの目頭に、汗とは違う滴りが光りました。
PICK UP! >> 小森茄子
長野県長野市篠ノ井の東福寺、小森地区を中心とした地域に伝わる「小森茄子」。つやつやの濃紫紺色をした実は直径9cm~10cmほどの大きさ。みっしりと果肉がつまってジューシー、とろけるような食感と甘みが特長
SPECIFICATION
品種/小森茄子
育成地/長野県
開発年/ ―
交配/ ―
配信: OZmall