諸外国の親権制度から読み解く子どもの福祉|子どもの福祉のために知るべきこと

諸外国の親権制度から読み解く子どもの福祉|子どもの福祉のために知るべきこと

この記事では、諸外国と日本の親権制度の違いを解説した後、子供を福祉を実現するために知っておくべきことを解説します。

離婚をした夫婦が考えなければならないことは多岐に渡りますが、そのうちの1つが「子どもの福祉」ではないでしょうか?

夫婦が離婚した場合、子どもの生活環境に少なからず変化を与えます。環境が変わることで必ず子どもに悪影響があるかといえばそうとも言い切れませんが、離婚後にも現状の環境を維持できるのであればそれに越したことはありません。

この記事ではこれから離婚を検討している夫婦や、離婚した夫婦に向けて、子どもの福祉を実現するために知っておくべきこと解説します。子どもの福祉について考える機会にしていただき、親権を考慮する際の参考にしていただければ幸いです。

子どもの福祉とは

現在、「子どもの福祉」は民法などによって明文では規定されていません。子どもの福祉は子どもがどのように育っていくべきなのか、親子関係はどういったものが適切かについて内包していますから、具体的に定義することは困難でしょう。

もっとも、離婚における調停や家庭裁判所の裁判例などを見てみると、「子が健やかに育っていくために、子にとって不利益を与えないこと」といったことが基本的な概念となっているようです。

言い換えれば、子どもにとって不利益にならないように大人が配慮すること、とも表現できるでしょう。

諸外国と日本の親権に対する考え方や制度の違い

日本では、親権について、民法で次の通り規定されています。

・子どもに対する監護と教育の権利義務(民法820条)
子どもと実際に一緒に住んで養育する。教育を受けさせる権利と義務。

・居所指定権(民法821条)
子どもが住む場所を指定する権利。

・懲戒権(民法822条)
子どもの監護や教育に必要な程度で懲戒する権利。

・職業許可権(民法823条)
子どもの労働を許可する権利。

・財産の管理権と代理権(民法824条)
子ども名義の財産を管理したり、法律行為を代理したりする権利。

上記のように、民法において、親権には子どもの監護、教育、財産の管理などを行う親の権利・義務が定められています。子どもの成長や発達を支えるための親の権利であり、義務であるともいえるでしょう。

日本では離婚した際、夫婦の一方だけが親権を所有する単独親権が採用されており、父母のどちらか一方が親権者になります。

諸外国と日本の親権に対する考え方や制度には、どういった違いがあるのでしょうか。ここで確認してみましょう。

■アメリカの親権に対する考え方やそれにまつわる制度

アメリカでは、子供の親権は各州の法律によって規定されていますが、概ね似通ったものとなっています。

基本的な親権の考え方は、子どもの最善の利益に基づいて決定されるべきとしており、父親と母親は平等に扱われ、性別によって親権獲得が有利になるということはありません。

また、離婚後も、共同親権といって父親と母親がともに親権を有することも可能な州も多いです。

共同親権には、「法的共同親権」と「物理的共同親権」の2つの要素があります。

法的共同親権では、子どもの教育や医療、宗教教育などを決定する権利を親に平等に与えています。法的共同親権の下では夫婦は協力して決定しなければならず、協議で合意に至らない場合には裁判所に判断を委ねることになります。

一方の物理的共同親権とは子どもが親と過ごす時間に関するものです。父親と母親で同じ時間を過ごしてもよいし、一方と長く過ごすことも可能です。

■ドイツの親権に対する考え方やそれにまつわる制度

ドイツでは、1957年に「男女同権法」が施行されたことにより、父親も母親も同等に子に対して親権を持っているとされています。

さらに、1979年に「親の配慮権に関する新規制法」が制定され、親権には、子の法定代理兼、身の上に対する配慮権、財産に対する配慮権などが含まれることを規定しています。加えて、同法律では、親権は子の成熟度に応じて自律性を尊重し、子と合意したうえで親権を行使すると規定されています。

また、ドイツにおいても、1982年に、離婚後の単独監護を定めた規定について、連邦憲法裁判所が違憲判決を下したことがきっかけとなり、1998年以降、離婚後の共同親権が認められるようになりました。教育・医療といった事項は両親の協議のより決定されます。また、ドイツでは少年局が設けられ、共同親権行使の援助などを行っています。

なお、日本とドイツでは面会交流に対する考え方が異なります。

日本とドイツの面会交流に対する考え方の違いについて、茨城大学人文社会科学部准教授の高橋大輔先生からお話を伺いました。

Q.ドイツの面会交流に対する考え方と日本の面会交流に対する考え方との違いとはどのような点にあるのでしょうか?

ドイツ法において日本の面会交流に相当する概念は、「交流権(Umgangsrecht)」である。

日本の面会交流とドイツの交流権に対する考え方の差異について、まず指摘できるのは、子どもの福祉との関係である。

ドイツ民法1626条3項第1文は、父母双方との交流が原則として子どもの福祉になることを明記している。これに対して、日本法においてはそのような明文の規定はない。現在、面会交流原則実施論が問題となっているけれども、少なくとも定着はしていない。

このように、父母との交流を「原則として」子どもの福祉になると考えるのかどうかで日本とドイツには大きな隔たりがある。髙橋自身は、「面会交流は原則実施されるべき」との立場ではある。

しかし、判例ではなく、広く国民の意見を吸い上げることのできる「議会」を通じた「立法」によってなされるべきであると考えている。

 

次に、権利性と義務性が指摘できる。ドイツ民法1684条1項は、子どもは父母いずれとも交流する権利を有し、父母は子どもと交流する権利を有し、義務を負うものとしている。

日本法には、このような規定は存在しない。2011(平成23)年に行われた民法改正でも、面会交流の法的性質に関して議論が分かれていることから、面会交流を権利として規定することは見送られている(飛澤知行『一問一答平成23年民法等改正―児童虐待防止に向けた親権制度の見直し』(商事法務、2011年)12頁〔当該部分執筆者不明〕)。

ただ、この差の根幹にあるのは、面会交流に対する考え方の差というよりも、物事に対する基本的な考え方の差であるように思われる。すなわち、白黒明確にしておきたいドイツ人と曖昧にしておきたい日本人の差であるように思われるのである(もちろん、物事を曖昧にしておきたいドイツ人もいれば、白黒明確にしたい日本人もいるけれども・・・)。

 

高橋大輔准教授のご経歴と関連著書

ご経歴

2011 年3 月 筑波大学人文社会科学研究科社会科学専攻修了。
2012 年4 月 茨城大学人文学部准教授。
2017 年4 月 同大学人文社会科学部准教授(学部改組のため)。

関連書籍

本澤巳代子、大杉麻実、高橋大輔、付月『よくわかる家族法』(ミネルヴァ書房、2014年)

 

■イギリスの親権に対する考え方やそれにまつわる制度

イギリス(イングランド・ウェールズ)の親権は、1991年より施行された子ども法によって規定されています。同法律では親権を「親の責務(parental responsibility」としており、子どものしつけや教育、治療などの決定を行う際の責任や財産の適切な管理が親に課されています。

また、親の決定が必要な事項は成長に応じて子どもの判断・意思が尊重されることもあり、親の責務が制限される場合があります。

さらに、2014年に施行された「子ども及び家族法」において、イギリスも離婚後の共同親権が認められています。子どもが18歳になるまで両親は「親の責務」を行使する義務を負っており、親は共同して子どもを監護すると定められているのです。もし、共同監護ができない場合には、離婚後の子供に関する取り決めを行い、協議のうえ所定の陳述書を裁判所に出す必要があります。