「摂食嚥下障害」の原因や症状、治療法を歯科医が解説! 上手く食べられない・飲み込めなくなるのはなぜ?

「摂食嚥下障害」の原因や症状、治療法を歯科医が解説! 上手く食べられない・飲み込めなくなるのはなぜ?

食事中に「よくむせる」「上手に噛めない・飲み込めない」「食べこぼしが多い」と感じたことはありませんか? これらは”年のせい”と思われがちですが、早い時期に適切な治療や訓練をおこなえば改善できる可能性があります。今回は高齢者に多い「摂食嚥下(せっしょくえんげ)障害」について、原因や症状、治療法などを「藤井歯科医院」の藤井先生に解説していただきました。

監修歯科医師:
藤井 隆彦(藤井歯科医院)

朝日大学歯学部卒業。広島大学大学院分子口腔医学・顎顔面外科学専攻。広島大学病院顎・口腔外科で勤務医として経験を積んだ後、「藤井歯科医院」の院長に就任。親子2代にわたり、地域住民の口腔内の健康を支えるかかりつけ医として、日々の診療に取り組む。日本口腔外科学会、日本口腔科学会、日本糖尿病学会、日本学校歯科医会の各会員。

「摂食嚥下障害」とは? 具体的な症状や原因を歯科医が解説

編集部

摂食嚥下障害とは、どのような障害なのでしょうか?

藤井先生

摂食は「食べること」、嚥下は「飲み込む」ことで、食べ物をお口に入れてから噛む・飲み込むまでの流れが上手くできない状態のことを「摂食嚥下障害」と言います。近年、お口に関連する衰えを「オーラルフレイル」と呼んでいますが、摂食嚥下障害もこのオーラルフレイルの1つです。主に食事に関する衰えのことですが、食べられないことで全身の栄養状態や精神状態にも何らかの影響を及ぼすと考えられています。

編集部

摂食嚥下障害では、具体的にどのような症状が表れるのでしょうか?

藤井先生

摂食嚥下障害の症状は多岐に渡ります。「食べるとむせる」「食べ物を噛み潰しても飲み込めない」「飲み込んでも食べ物が口に残る」などが代表的な症状です。また、これらに関連して「食事に時間がかかる」「食べると疲れる」「食べられるものが限定される」といった兆候を示すこともあります。

編集部

摂食嚥下障害の原因に、どのようなものがありますか?

藤井先生

摂食嚥下障害は高齢者に多く、加齢による筋力や機能の衰えが主な原因です。また、神経疾患や筋肉の病気がきっかけで、摂食嚥下障害になることもあります。

編集部

摂食嚥下障害は若い人でも発症することはあるのでしょうか?

藤井先生

はい。摂食や嚥下に関わる筋力の低下は加齢によるものが多い一方、若い人でも筋力が弱いケースもあります。これは先天的な病気のほかに、生まれてからの環境や食生活(軟らかい食事が多い・硬いものを食べないなど)が要因となって、筋力に個人差が生じていると考えられます。したがって、年齢が若いからといって筋力があるとは限らず、潜在的に摂食嚥下障害を発症している若年者も少なくないようです。

摂食嚥下障害にはどんなリスクがある? 注意すべき「誤嚥性肺炎」との関係

編集部

摂食嚥下障害になると、どのようなリスクがありますか?

藤井先生

最も深刻なのは「誤嚥性肺炎」です。私たちが食事をするとき、誤嚥すると通常は反射的に咳をして気管に入り込んだ食べ物を吐き出します。しかし、摂食嚥下障害になるとその反射の力が弱くなり、食べ物や唾液に含まれる細菌が肺に到達し、肺炎を発症してしまうことがあります。とくに、高齢者の誤嚥性肺炎は重症化すると生命に危険が及ぶため、最大の警戒が必要です。

編集部

誤嚥性肺炎のほかに、考えられるリスクはありますか?

藤井先生

上手く食事ができないことにより、「低栄養」や「身体の機能低下」のリスクが高まります。加齢による筋力や機能の衰えは自然に起こる現象である一方、これらの衰えの中には適切な訓練や治療をおこなえば元の状態に戻せるケースもあります。年をとると体が衰えるのは「当たり前」「仕方がない」と思い込みがちですが、決してそうではないということをぜひ知っていただきたいです。

編集部

「年のせい」という思い込みが、かえって衰えを進ませてしまうこともあるわけですね。

藤井先生

はい。まずは加齢による体の変化を自己判断で放置せず、その変化がどこに生じて、どの段階まで進んでいるのかを正しく評価することが肝心です。その評価から機能が落ちていると判定できる場合はそれを戻す訓練をする、歯が少ないのであればそれを補うなど対処すれば、衰えの進行を食い止めることができます。

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