今回の研究内容への受け止めは?
イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンらによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。
田頭先生
今回の研究内容を素直に受け止めれば、有望な認知症の新薬が登場したという感想を持つ人も多いと思います。ただ、私はこの研究結果を鵜呑みにせず、慎重に検討する必要があると考えます。
バイアグラをはじめとする勃起不全治療薬は「必要に応じて飲む薬」であり、高血圧や糖尿病の薬のように毎日飲むことを前提に設計されているものではありません。もし仮にアルツハイマー病を改善する効果があったとしても、治療薬として毎日飲む場合に副作用の問題が懸念されます。バイアグラはもともと心臓の狭心症という病気の治療薬として開発されたものにたまたま勃起不全治療の効果があることがわかって転用されたという歴史もあり、長く使用することで思わぬ臓器に思わぬ副作用が出るという可能性は十分に考えられます。
また、今回の研究の対象者数は約27万人と申し分のない数ですが、過去の患者データベースを後から振り返って調査する後ろ向きコホート研究という手法でおこなわれています。そのため、対象者の調査データが不十分で、例えばアルツハイマー病の診断に必要な神経心理検査がおこなわれておらず、診断が不正確となっている可能性もあります。一方で対象者の平均年齢は59歳と若く、5年間の観察期間があるとしても、アルツハイマー病の大半の発症年齢が65歳以上であることを踏まえると、十分にアルツハイマー病についての現状が評価できているとは思えません。さらに、平均年齢59歳でバイアグラの処方を受けている人たちは、そうでない人たちと比べて、もともと活動性が高いという背景の差もあるかもしれません。もしそうであれば、今回の研究結果はそもそも平等な条件での集団比較とはなっておらず、アルツハイマー病を発症するリスクの差は勃起不全治療薬によってもたらされたものではなく、別の要因(運動量の違いなど)でもたらされたという可能性も出てきます。
認知症については、高齢化社会の中で今後ますます患者が増えていくことが想定されており、一刻も早く画期的な治療薬の開発が求められている状況でしょう。しかし、だからこそ結論を焦らず、慎重に研究を進めてもらう必要があると思います。
まとめ
イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンらの研究グループは、「バイアグラなどの勃起不全治療薬がアルツハイマー病の発症リスクを低下させる可能性がある」と発表しました。高齢化が進む日本では、認知症の患者も増加しており、その原因となるアルツハイマー病に関する研究は大きな注目を集めそうです。
配信: Medical DOC
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