地震の被害は完全には防げない 「強く、しなやかに」乗り越える力をつけるために 

3つの備え 被害低減努力/高い事業継続力/速やかな復旧・復興

そういう事態に備えてできることは3つあります。①発生する被害を少しでも減らす努力をすること②重要な社会機能については、高い事業継続力を持つこと③社会全体として、速やかな復旧・復興を実現すること――で、これが「レジリエンス」です。

構造物を頑丈に作ったり、仕組みを多重化したりという「予防力」を向上させたり、事業の脆弱性を減らして「回復力」を向上させたりすると、それだけ、復旧にかかる時間が短くなります。

■レジリエンスのイメージ

レジリエンスに取り組む個人・コミュニティー・社会

レジリエンスを実行する主体として、個人、コミュニティー、社会の3つがあり、それぞれ、「自助」「互助・共助」「公助」に取り組むことになります。

具体的に言うと、「自助」は、自宅の耐震化を進めたうえで、家の中のタンスや本棚を壁などに固定したり、水や食料、非常用トイレなどを準備したりすることなどが挙げられます。「互助」は、家族や親戚、友人知人、近所の人などと、被災時に食料や水を分け合ったり、自宅に閉じ込められた時に救い出したり、住む場所を提供し合えたりできるような関係性を作ったり、避難訓練をしておくことなどがあると思います。

「共助」としては、民間の地震保険や共済の活用など、「公助」は、法律や税制による支援などが該当します。

――どれも大切なことですが、「自助」ですら、完全にできている人は多くありません。日本は世界でも有数の地震国ですが、防災意識が浸透しているかというとそうでもない気がします。

まずは豪雨などに備えることから

起こるか起こらないかわからない地震に備えるのは難しいことです。まずは、近ごろ激甚化している、豪雨などの気象災害に備えることから始めるといいのではないでしょうか。

自分が住んでいる場所が、大雨が降った場合に浸水するかどうか、自治体のハザードマップで調べて、必要な備えをする。今はインターネットがあるので、ハザードマップを確認するのは多くの人にとってそれほど難しくないと思います。

逃げる必要があれば逃げ、必要がなければとどまる。自宅にとどまる場合は、停電や断水、家屋の破損などに備えておくことが大事です。

覚えておいてほしいのは、例えば断水は、風水害でも地震でも起きるし、家に住めなくなることも、地震であっても風水害でもっても起きる可能性がありうる。そう考えれば、必要な備えは災害の種類を問いません。

頻繁に起きる風水害への対応策を一生懸命考えれば、地震時の備えにもなる、と考えるといいのではないかと思います。

――風水害は毎年のように起こりますし、かつてはそんなに大雨が降らなかった地域でも、被害が出ていたりします。

人生で起こる困難は自然災害以外にも

自然災害だけではなく、人生には、個人や社会に起因する様々な困難があります。私が推進しているレジリエントライフ・プロジェクト※1では、そういった災害以外の困難を乗り切ることも「レジリエンス」ととらえ、備えを積み重ねていくことを提唱しています。

新型コロナで進んだ「備え」

例えば、新型コロナの感染が拡大していた時のことを思い出してもらえるといいのですが、仕事の面ではリモートワークが一気に進み、出社しなくてもある程度仕事ができるようになりました。ウイルス感染を恐れて食料を買いに行く回数を減らしたことで、ローリングストック※2に取り組む人も増えたのではないでしょうか。

■「レジリエントライフ」の概念図

――少しずつ災害への備えができているわけですね。

ただ、まだ十分ではありません。

今は、「使うのは災害時だけだから」という考えのせいか、災害時に使う商品やサービスが「安かろう悪かろう」だったり、質に対して価格が高すぎたりするものが横行しがちです。

災害時にも使える質のよい製品・サービスを増やす

今後はリスクが増して行く時代なので、リスクに立ち向かう力を高めていく必要があります。平時でも災害時でも使える質のいい製品やサービスがもっと増え、それを国民一人一人が選べるような社会を作っていかなければならないと思っています。

レジリエントライフ・プロジェクトには、志を同じくする企業や団体が集まっていて、商品も、新聞紙だけでご飯が炊ける炊飯器※3や、繰り返し使える段ボール製のテントやテーブルなど、キャンプや日常でも活用できる、多くの人に勧められる製品が出てきています。


写真説明:左は、段ボール製で、たたむとコンパクトになるテーブルとクーラーボックス、右下は電気もガスも使わず、新聞紙だけでご飯が炊ける炊飯器

これからもっと、レジリエンスという概念を社会の中で広げていき、理念に合致した商品やサービスが増えるようにしていきたいですね。その結果、大災害が起きても被害が最小限に抑えられ、元の生活に素早く戻ることができる日本になれば、と思っています。

※1 レジリエントライフ・プロジェクト 自然災害などあらゆるリスクによる困難を乗り越えるための「レジリエンス」を高め、より豊かな生活の実現を目指す取り組み。I-レジリエンス株式会社や防災科学技術研究所、博報堂、タイガー魔法瓶、読売新聞東京本社などが加入している。

※2 ローリングストック 普段食べている、消費期限が長めの食品を多めに備蓄し、食べた分だけ買い足す方法。食の防災対策として広がっている。

※3 タイガー魔法瓶が2023年に発売した炊飯器「魔法のかまどごはん」。電気もガスも使わず、新聞を折って丸めて薪代わりに使うことで最大5合の白米を炊くことができる。

<執筆者プロフィル>

針原陽子

「防災ニッポン」編集長 読売新聞 専門委員

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