ワクチン不足も懸念か…【はしか流行】“空白世代”から不安の声高まる 妊娠・出産で考えられるリスクとは?

ワクチン不足も懸念か…【はしか流行】“空白世代”から不安の声高まる 妊娠・出産で考えられるリスクとは?

妊婦、妊活中の女性から不安の声

 世界的に流行している「麻疹(はしか)」。日本でも感染者の報告が相次ぎ、感染の拡大が危惧されています。はしかの予防で有効とされているのが「ワクチン接種」です。

 中でも気をつけなければならないのが「ワクチン空白世代」だと言われています。成人で感染すると重症化リスクがあり、この空白世代に当たる人は、感染に気をつけなければなりません。特に妊娠中の感染は、さまざまなリスクが伴います。「Ladies clinic LOG原宿」院長・清水 拓哉先生は、「妊娠中の患者さんやその家族から、はしかが不安だという相談が増えている」と話します。

 妊活中の人や、妊婦さんははしかの対策ができるのでしょうか。もし感染してしまったらどのように行動すればいいのでしょうか。清水先生にお話を伺いました。

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Q.麻疹(はしか)とはどのような病気でしょうか。

清水先生「麻疹(はしか)はパラミクソウイルス科の麻疹ウイルスによる感染症です。感染してから10日~12日の潜伏期間(症状がない時期)を経て、高熱、せき、鼻水、結膜炎といった風邪の症状が2、3日持続します。のちに、口の中のほほの裏側に小さな白いぶつぶつ(発疹)ができます。

一旦は熱が下がりますが、再度、熱が上がり、体中に赤い発疹ができます。発疹は5~6日経過すると消えていきます。7~10日間で解熱して回復します。

特別な治療法は存在せず、対処療法のみになります。解熱剤を使用しながら安静に過ごして治療します。細菌感染を同時に発症することもありますので、抗生剤を使用することもあります。通常は入院が不要ですが、まれに脳炎や肺炎などの重症合併症を引き起こすこともあり、入院管理が必要になる場合もあります」

Q.麻疹(はしか)の感染経路を教えてください。

清水先生「麻疹(はしか)に感染したヒトに接触したり、麻疹の感染者のつばや咳にウイルスが含まれています。同じ空間で過ごすだけで感染することもあります。

感染経路は飛沫感染、空気感染、接触感染の3つがあります。

ヒトからヒトへ感染し、感染力はウイルスの中でも非常に強いとされています。抗体を持っていないヒトが感染すると、ほぼ100%の確率で麻しんにかかります。

麻疹に免疫力がないような集団に1人の麻疹感染者がいたとすると、12~14人が感染すると言われています。インフルエンザでは1~2人程度なので、感染力が非常に強いことが実感できます。

発症の5日前から発疹が出て、解熱後3日を経過するまでは周囲へ感染させる可能性がありますので外出は避けて下さい」

Q.「ワクチン空白世代」などと、接種状況に世代差ができてしまっているようです。どのような経緯があるのでしょうか。

清水先生「2024年3月時点の年齢別の麻疹ワクチン接種歴です。

・1972年9月30日以前に生まれた方(52歳):麻疹ワクチンを接種していない可能性が高い世代。
・1972年10月1日~1990年4月1日に生まれた方(34~52歳):麻疹ワクチンの定期接種を1回実施している世代。
・1990年4月2日~2000年4月1日に生まれた方(24歳~34歳):麻疹ワクチンを1回実施している世代。中学1年または高校3年生のときにキャッチアップで2回目を接種している可能性もあり。
・2000年4月1日以降に生まれた方(24歳以下):定期接種として2回接種を受けている世代。

麻疹ワクチンが定期接種となったのは、1978年10月1日からです。対象者は1歳~6歳児で、当時はワクチン接種の回数は1回のみでした。2006年4月2日から麻しん・風しん混合生ワクチンが導入され、同年から2回接種が開始されました。

2007年に麻疹が全国で流行したため、2008年4月1日から5年間の特例措置として中学1年生と高校3年生でワクチン接種が受けられるような機会が設けられました」


妊娠中にはしかに感染してしまったら…

もし、妊娠中にはしかに感染してしまったら…

Q.もし、妊娠中に「はしか」に感染した場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

清水先生「妊娠中に麻疹に感染すると、流産や早産のリスクが高まります。また、母体にも肺炎や脳炎などの重症合併症を引き起こす可能性があります。ただし、先天奇形のリスクは関連していません。

アメリカでの過去の麻疹流行時のデータによると、妊娠中に麻疹に罹患した場合、約30%で流産または早産に至り、そのほとんどが発疹出現から2週間以内に起こっていました。また、妊娠中の麻疹罹患では、非妊娠時に比べて肺炎の発症リスクが2.6倍、死亡率が6.4倍高いという報告もあります。

妊娠中は免疫力が低下する傾向にあるため、重症化して入院を要する可能性も考えられます。そのため、事前の感染予防対策が不可欠となります」

Q.妊活中(妊娠前)、妊娠中でこの「ワクチン空白世代」にあたる人はどのような対策があるのでしょうか?今できることはありますか?

清水先生「現在、妊活中の方の多くは、小さい頃に1回または2回麻疹ワクチンを接種しているものと考えられます。

1回しか接種していない場合、麻疹への免疫が低下している可能性があります。麻疹に罹患したか、ワクチンを2回接種したか覚えていないという方は、現時点での抗体価を調べ、追加接種が必要かを判断することが重要です。麻疹ワクチン1回接種での免疫獲得率は95%程度ですが、2回接種すると99%に上がるとされています。日本では2回接種が推奨されています。

麻疹ワクチンは生ワクチンのため、接種間隔を4週間以上空ける必要があります。また、妊娠を希望する場合は、接種から2か月以上の期間を空けましょう。

幸いにも、一度抗体ができれば、その後は麻疹に罹患することはありません。終生免疫が得られるためです。小さい頃に罹患した場合は抗体が存在する可能性が高いですが、記憶がない場合は抗体価を確認することをお勧めします。抗体価が低ければ、麻しん・風しんワクチンの接種を検討しましょう。

妊娠中の方は残念ながらワクチン接種ができません。不安な場合は、血液検査で抗体の有無を確かめるとよいでしょう。抗体があれば感染は防げますが、抗体がない場合は人混みを避け、手指衛生にも気を付けましょう」

Q.妊娠中にはしか患者に接触してしまったかもしれない場合、どうすればよいでしょうか。

清水先生「妊娠中にはしか患者に接触した場合には、すぐに妊婦健診を受けている医療機関に連絡して指示を仰いで下さい。

過去に麻疹に感染している方やワクチン2回接種している方は感染の心配はほぼありませんが、ワクチンを1回のみ接種した方やまったく接種していない方は感染する危険性があります。

麻疹に感染した場合には初期症状は風邪と同じですので、風邪と判断されてしまう場合もありますが、その後に発疹が見られたら放置はせず、必ず医療機関に連絡をしてから病院を受診して下さい。

感染中は胎児の状態を見ることは困難になりますので、不安が強くなるでしょうが、解熱して3日以上経過していれば、病院へ受診することができます」

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