噴出するロースクール失敗論、京大・曽我部教授が「それでも良い影響があった」と語る理由

噴出するロースクール失敗論、京大・曽我部教授が「それでも良い影響があった」と語る理由

●多様な学びのニーズに応える制度の一つ

―—ロースクールの存在意義とは何でしょうか。

本来は、司法試験だけでは測れないものも含め、法曹としての様々な資質の基礎を身につける場として構想されたわけですが、現実には試験のプレッシャーのため、そうした理念の実現は道半ばです。他方で、結果的に、法曹になりたい人々の多様なニーズに応える制度の一つにはなっていると思います。

つまり、とにかく早く法曹資格を得たい、そしてそうした能力のあるという人は旧試験並みのハードルを乗り越えて予備試験を受ければいいし、それには至らない人たち、あるいはじっくり学びたいという人たちはロースクールに行けば、より低いハードルで資格が得られたり、より深い法学学修ができたりします。

―—しかし、20代半ばで法科大学院を修了して司法試験も5回受けて合格せず、30歳近くになって就職もできないとしたらどうですか。

司法試験の合格率、特に法学未修者の合格率が当初の想定ほど伸びなかったことは、制度設計の問題です。ロースクール制度を設計する際、韓国のように法学部をほとんどなくしてしまうようなことをせずに未修者と既修者とを併存させ、未修者は法学部生が2年あるいは3年かけて学んだことを1年で身につけるという要求には無理があります。

―—その点、京都大学のロースクールの合格率は、ここ数年60%前後で推移しており、2022、23年と2年連続で全国1位となっています。なぜでしょうか。

京大法学部生の中で、予備試験を真剣に受験する学生が少なく、成績優秀層も含め、ロースクールに進学するのが普通だという認識が定着しているからでしょうね。旧試験時代の話ですが、私が学生の頃も、学部の1、2回生のころから真剣に司法試験の勉強をしている人は少なく、3回生くらいからまじめに勉強し始めて、5、6回生で受かる人が多かったのです。いまもメンタリティとしてはそれに近いものがあると思います。また、他大学の優秀な学生が入学してくれているというのも大きいでしょう。

―—「法曹コース3 + 2」の影響は?

「3 + 2」が始まってからも、本学ではこれまで通り、成績優秀者であっても予備試験よりも早期卒業を目指す傾向があると思います。ただ、統計をみると、依然として少数ではありますが、大学入学当初から予備校に通うなどして本格的に予備試験対策を行い、2、3回生で予備試験に合格する者も増えつつあるようです。

私のゼミでも昨年は3回生が2名、4回生1名が予備試験に合格しました。ただし、ゼミ生全体としては早期卒業者(あるいは早期卒業できるのにあえて通常卒業する者)の方がずっと多いです。ちなみに、大手の法律事務所の中にも、こうした本学の特徴を踏まえた上で積極的に採用をして頂いているところがあって有難いです。

―—法曹養成システム全体の中で、ロースクールが進むべき方向とは何でしょうか。

米国ではロースクールが、人権擁護など地域や社会の課題の解決のための拠点になっているとか、ビジネス法務に強いといった特色を打ち出しているところが多いようです。日本でも法曹の役割の多様化に対応して特色のある授業や取り組みを考えていくことも可能ではないでしょうか。

【プロフィール】

曽我部 真裕(そがべ まさひろ)京都大学大学院法学研究科教授

1974年生まれ。専門は憲法・情報法。主な編著書として、『憲法Ⅰ、Ⅱ』(共著、日本評論社)『判例プラクティス憲法(第3版)』(共編、信山社)『憲法論点教室(第2版)』(共編、日本評論社)『情報法概説(第2版)』(共著、弘文堂)など。

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