交通事故で顔に傷が残った場合は後遺障害に認定される?基準や事例を踏まえ解説

後遺障害の認定を受けるために必要な手順

後遺障害の認定を受けるためには下記の2つの手順があります。

事前認定
被害者請求

これら手順にかかわらず、後遺障害の認定を受けるためには、後遺障害診断書等の書面や画像所見等によって残存した後遺症が後遺障害等級に該当することを示すことが重要になります。

事前認定と被害者請求の流れについて、以下、解説します。

事前認定

交通事故の相手方が加入する任意保険会社は、あらかじめ、必要書類を整えて、損害保険料算出機構に対し、責任の有無、後遺傷害の有無・程度・等級を問い合わせ、その調査結果の報告を受けることがあります。これは、「事前認定」と呼ばれています。

事前認定の基本的な流れは、以下のとおりです。

医師より「症状固定」の診断を受ける

※ 「症状固定」とは、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもったとしても、その効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき」をいいます。

後遺障害診断書を医師に作成してもらう
後遺障害診断書を加害者側の任意保険会社へ送付
加害者側の任意保険会社が損害保険料算出機構に対し認定申請を行う
書類を受理した損害保険料率算出機構が、後遺障害等級に該当するか審査開始
審査結果に応じた等級認定が出る

事前認定は被害者側の負担が少ないため、手間がかからない手順と言えます。

書面なども被害者側は、そこまで資料を集めなくても申請が可能です。

ただし、認定までの流れが加害者側の任意保険会社が主体になる点には注意が必要でしょう。

資料不足や手続きの透明性の高さ、賠償金の受け取りが遅くなるなどのデメリットもあります。

また、被害者側が後遺障害の認定を受けるために有利な資料などを提出できないおそれもあるため、事前認定で後遺障害等級認定の申請を行う場合は、しっかりと検討した上で行いましょう。

被害者請求

被害者請求は、被害者側が加害者側の自賠責保険会社を通じて、後遺障害等級の認定の申請を行う方法です(自賠法16条)。

被害者請求の手順を下記にまとめました。

医師より「症状固定」の診断を受ける
後遺障害診断書を医師に作成してもらう
加害者が加入する任意保険会社に申請に必要な書類の写しをもらう
不足書面や補充したい資料、診断書があれば各機関へ発行を依頼するなどする
各申請用紙に必要事項を記入、資料もともに自賠責保険へと送付
自賠責保険が損害保険料率算出機構へ書類を提出
損害保険料率算出機構が後遺障害等級に該当するか審査開始
審査結果が自賠責保険へ送付され、内容に応じた等級認定の結果が出る

上記の流れからも、被害者請求は被害者側に有利に働く資料を提出することが可能です。

透明性の高い手続きが可能になることから、適切な後遺症障害等級が認定されやすくなるメリットがあります。

一方、資料の準備など被害者側の負担は大変大きく、身体的・精神的にも疲弊するおそれもあります。

被害者請求での手続きを行う際は、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

請求できる慰謝料の種類と相場

後遺障害認定された際、請求できる慰謝料や休業損害、逸失利益にはどのようなものがあるのでしょうか。

後遺障害における等級認定の級によっても大きく変わってきますが、今回は、顔に傷が残ってしまった場合を想定し、請求できる慰謝料や休業損害、逸失利益の内容や相場を以下の順で説明します。

顔の傷による入通院慰謝料の相場
後遺症慰謝料の相場
休業損害の相場
逸失利益の相場

 

顔の傷による入通院慰謝料の相場

交通事故によって顔または首、頭部などに残った傷は、「外貌醜状」と呼ばれています。

顔などに傷が残り後遺障害認定された場合、通院や入院期間の慰謝料はどの程度が相場になるのか確認しておきましょう。

まず、交通事故によって顔に傷が残った場合、通院・入院期間における入通院慰謝料(「傷害慰謝料」とも呼ばれます。)を請求することが可能です。

ただし、入通院慰謝料金額には算定基準には、「自賠責基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準(「裁判所基準」とも呼ばれます。)」があり、基本的には、弁護士基準による入通院慰謝料の金額が最も高くなります。

弁護士基準の入通院慰謝料は、原則として、以下の表のとおり、入院期間、通院期間の長さによって変わります。

別表Ⅰ


 

別表Ⅱ

 

上記の表のとおり、弁護士基準の入通院慰謝料にも、別表Ⅰと別表Ⅱがあります。

顔の傷が軽症か重症かなど、さまざまな要因によって、別表Ⅰと別表Ⅱのどちらを適用すべきか検討しなければなりません。また、治療回数が少ない場合、そのまま表とおりに金額を算定していいのか検討する必要があります。

このように、受傷内容や治療回数等によって入通院慰謝料の金額は変わるため、相手方保険会社が提示した入通院慰謝料の金額が相場かどうか気になる方は弁護士に相談してみましょう。

 

後遺症別慰謝料の相場

後遺障害の等級により後遺症慰謝料の金額が大きく変化します。

ここでは、弁護士基準と自賠責保険基準における後遺障害等級別の後遺症慰謝料を下記の表にまとめました。

後遺障害の等級

弁護士基準

自賠責保険基準

第一級

2,800万円

1,150万円

第二級

2,370万円

998万円

第三級

1,990万円

861万円

第四級

1,670万円

737万円

第五級

1,400万円

618万円

第六級

1,180万円

512万円

第七級

1,000万円

419万円

第八級

830万円

331万円

第九級

690万円

249万円

第十級

550万円

190万円

第十一級

420万円

136万円

第十二級

290万円

94万円

第十三級

180万円

57万円

第十四級

110万円

32万円

顔に傷が残った場合、例えば、外貌に著しい醜状を残すもの(第7級12号)では、弁護士基準が1,000万円、自賠責基準が419万円になります。

このように、弁護士基準と自賠責保険基準では、後遺症慰謝料の額に大きな差が出ます。

相手方保険会社から提示された後遺症慰謝料の金額が弁護士基準より低い場合は、弁護士に相談してみましょう。

 

休業損害の相場

休業損害とは、一般に、交通事故により受けた傷害の症状が固定するまでの療養の期間中に、傷害及びその療養のため休業し、又は十分に稼働することができなかったことから生じる収入の喪失をいいます。

休業損害の金額は、「基礎収入日額×休業日数」で計算されるのが一般的です。

自賠責保険基準では、原則として、基礎収入日額の金額は1日6,100円とされています。

ただし、1日あたりの減収分が6,100円を超えることを証明できた場合、最大19,000円となりますが、補償される金額は慰謝料などを含めると120万円が上限ですので注意が必要です。

一方、弁護士基準の場合は休業損害を下記の計算式で求めます。

1日あたりの基礎収入×休業日数

弁護士基準では、被害者の収入によって基礎収入が変わるところが自賠責保険基準との違いです。

1日あたりの基礎収入の金額は、給与所得者と自営業者に分けて、主に、以下の計算式で行うことが多いです。

給与所得者

事故前3ヶ月分の給与額(総支給額)÷90日×休業日数

自営業者

事故前年の確定申告所得額÷365日×休業日数

有給休暇を使用して休んだ場合も休業損害の請求は可能です。

また、事故3か月前に残業代をもらっていた場合も、基本的に、その残業代も含めて1日あたりの基礎収入額を算出することになります。

 

逸失利益の相場

後遺障害事案における逸失利益は、一般に、被害者の身体に後遺障害が残り、労働能力が減少するために、将来発生するものと認められる収入の減少のことをいいます。

逸失利益の金額は、一般に、「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」で計算することになります。

基礎収入の金額は、主に、以下の内容を採用することが多いです。

サラリーマン等の給与所得者

事故前の1年間の実収入

自営業者

事故前年の確定申告の申告所得額

主婦・主夫

賃金センサスの女性労働者の全年齢平均

学生・生徒・幼児

賃金センサスの男女別の全年齢の平均賃金

女子年少者の場合は、男女を含む全労働者の全年齢平均を採用することが多い

失業者

労働能力と労働意欲があり、就労の蓋然性がある場合は認められる。原則として、再就職によって得られるであろう収入を採用する。

将来もらえたであろう収入における補填であることから、主婦や主夫、学生・生徒・幼児なども対象となります。

もっとも、顔の怪我による外貌醜状を後遺障害とする逸失利益による損害賠償請求は、直ちに認められるという性質のものではありません。顔の怪我によって収入が下がる可能性が高いと認められる職業、例えば、俳優、モデル、ホステス、ホストなどの職業であれば、逸失利益が認められることがあります。

加害者側から外貌醜状を後遺障害とする逸失利益の有無が争われる場合があります。このような場合は、なぜ、どのように、逸失利益が発生するのかという点を説得的に主張立証する必要があります。

 

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